研究課題/領域番号 |
21J10881
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
村田 早羅 九州大学, 歯学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞外小胞 / SHED / 軟骨細胞 / 細胞増殖 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ヒト乳歯幹細胞(stem cells from human exfoliated deciduous teeth(SHED) )が放出する細胞外小胞(extracellular vesicles(EVs))がヒト軟骨細胞の増殖能に与える影響について、ヒト軟骨細胞へSHEDのEVs添加後の軟骨細胞の細胞内シグナル伝達の変化の解析とその原因因子を探索することである。本年度の研究では、まずSHEDのEVsによる軟骨細胞の刺激後、細胞増殖促進に関連するERK経路とWnt/β-カテニン経路ついてウェスタンブロッティングで解析を行い、ERK経路においてEVs添加後数分の間で優位に活性が上昇することを確認した。 次に、SHEDのEVs中のmiRNAによる影響を調べた。RNase処理を行ったEVsで軟骨細胞を刺激したところ、増殖能、テロメレース活性は未処理EVsと同等の上昇を示した。さらにERK経路の活性化の促進に関連する因子を検索し、Integrinβ1がSHEDのEVsの膜表面に発現を認め、SHEDのEVsにより刺激を受けた軟骨細胞の膜表面のIntegrinβ1の発現も増加することがわかった。Integrinβ1を軟骨細胞のゲノム編集にてノックアウトを行い、Integrinβ1ノックアウト軟骨細胞へSHEDのEVsによる刺激を行ったところ、ノックアウト軟骨細胞の増殖能の上昇を認め、またIntegrinβ1の発現が上昇することが確認できた。SHEDのゲノム編集によりIntegrinβ1のノックアウトを行ったSHEDのEVsを抽出し、Integrinβ1を欠失させたEVsによる軟骨細胞刺激後、増殖能への影響の変化を評価する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究で、SHEDのEVsによる軟骨細胞の刺激後、軟骨細胞の増殖促進に関連するシグナル伝達経路の特定に成功している。また、そのシグナル伝達経路の活性化の促進に関連する因子がSHEDのEVs中に発現することを確認した。SHEDのゲノム編集によりIntegrinβ1を欠失させたSHEDのEVsを抽出するため、SHEDのノックアウト細胞の作製を行ったが、ノックアウト細胞の樹立に難航し、試行錯誤を重ねたため当初の計画よりも長い期間を要した。現在はIntegrinβ1ノックアウト細胞の樹立についての目処が立っている。今後はノックアウト細胞でIntegrinβ1を除去したEVsを用いて軟骨細胞を刺激し、増殖能への効果について評価を行い、論文投稿を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
軟骨細胞の増殖能を促進するSHEDのEVs中の因子特定に向けて、SHEDのIntegrinβ1ノックアウト細胞を樹立し、この細胞から抽出したEVsで軟骨細胞を刺激して増殖能への影響を調べる予定である。また、FGFR3は軟骨細胞の増殖の負の調節因子として知られておりFGF/FGFR3シグナル伝達は、軟骨細胞の増殖能を抑制し、老化細胞の表現型マーカー遺伝子の発現を上昇する。このFGFR3を原因遺伝子とする疾患である軟骨無形成症由来の軟骨細胞に対して、SHEDのEVsによる刺激後の増殖能やテロメレース活性への効果を評価する予定である。 また、増殖能への影響の他にSHEDのEVsによる軟骨細胞の分化能への影響について、軟骨細胞の分化の過程においてEVs刺激後の遺伝子発現(q-PCR)や軟骨基質形成(アルシアンブルー染色)の変化について評価を行う予定である。 軟骨無形成症の疾患モデルマウスにSHEDのEVsの投与を行い、骨の伸長や成長板軟骨の細胞層への変化について評価を行う。将来的には難治性骨格疾患の小児患者に対して「成長促進」が可能となるような研究にしたいと考えている。
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