研究課題/領域番号 |
21J10883
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山口 美桜 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 乳癌 / 化学療法 / マクロファージ / HSP70 |
研究実績の概要 |
①化学療法後の乳癌細胞がマクロファージに与える影響:抗癌剤であるエピルビシン(EPI)に曝露した乳癌細胞と共培養したヒト単球系細胞株由来マクロファージは、乳癌細胞の増殖能および遊走能を促進した。これらより、化学療法後の乳癌細胞がマクロファージの腫瘍促進作用を誘導することを確かめることができた。 ②化学療法誘導性エクソソーム内包因子の探索:EPI曝露後の乳癌細胞と、当分野で樹立したEPI耐性乳癌細胞の培養上清および分泌するエクソソームにおいて、Heat shock protein (HSP) 70の発現が上昇した。また、蛍光免疫組織化学法により、EPI曝露に伴い、乳癌細胞の細胞質におけるHSP70の発現することを見出した。 ③細胞外HSP70がマクロファージに与える影響:siRNAを用いて、乳癌細胞の培養上清および分泌するエクソソームにおけるHSP70の発現を抑制した。HSP70抑制培養上清をマクロファージに添加した結果、腫瘍促進型であるM2マクロファージへの分化が抑制された。しかし、HSP70抑制培養上清を添加したマクロファージが、乳癌細胞に与える顕著な影響は見出すことが出来なかった。そこで、HSP70抑制培養上清を添加した乳癌細胞において、Transforming Growth Factor (TGF)-betaの分泌が低下し、マクロファージのM2分化を抑制することを見出した。 ④乳癌組織におけるHSP70の発現意義:ヒト乳癌組織116例を対象としてHSP70の免疫染色を行い、臨床病理学的因子および予後との関連について解析した。その結果、乳癌細胞の細胞質におけるHSP70陽性症例は悪性度が高く、予後不良であることを確認した。さらに、HSP70陽性症例においてのみ、マクロファージの浸潤は有意に健存期間を短縮し、HSP70陰性症例においてこの傾向は認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、乳癌細胞における化学療法誘導性エクソソーム内包因子としてHSP70を同定し、マクロファージに直接的に、または乳癌細胞のサイトカインの分泌を調節することで、マクロファージの悪性形質を誘導する可能性を見出した。さらに、臨床検体を用いた検討により、乳癌組織においてHSP70が予後不良因子であることや、マクロファージの悪性形質の顕在化との関連を見出した。 一方で、本年度に担癌マウスモデルを用いた実験を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い所属機関での滞在時間が制限されたことや、所属機関所有の共用動物実験施設の改修工事により遅れが生じた。そのため、来年度に予定していたヒト乳癌組織を用いた実験を前倒して遂行した。また、当初は化学療法前後の乳癌患者の血清検体を用いた実験を想定していたが、臨床検体の入手に難航し、遅滞している。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの感染拡大の収束の目途が立たないことや、引き続き動物実験施設の改修工事が続くことから、動物実験の遂行が困難になると予想されるため、培養細胞およびヒト乳癌組織を用いた実験を拡充させることを目指す。 化学療法誘導性細胞外HSP70がTGF-betaの分泌誘導を介してマクロファージの腫瘍促進作用に与える影響について、TGF-beta受容体阻害剤(Galunisertib)やsiRNAを用いて検討を進める。顕著な影響が認められた場合、ヒト乳癌組織を用いた免疫組織化学的検討により、乳癌におけるTGF-betaの発現意義や、HSP70の発現との関連を解析する。 さらに、本事象においてHSP70が受容細胞に作用する際の伝達形式について精査する。siRNAによるHSP70発現抑制エクソソームや、HSP70リコンビナントタンパク質の添加実験を行うとともに、それらの受容体について検討する。HSP70の受容体としてToll like receptor (TLR) 2およびTLR4が知られており、現在これらの過剰発現プラスミドを作成している。これらの結果を国外学会および国内学会にて発表するとともに、今年度中の論文投稿を目指している。
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