四酸化オスミウム(OsO4)と配位性アニオンを作用させ、構造などがどのように変化するかを調べ、その変化がOsO4の酸化活性に及ぼす効果について検討した。 まず、OsO4と種々のハロゲン化物イオン(X-)との反応により生成したアニオン付加体([OsO4(X)]-)の構造を、単結晶X線構造解析により決定すると、用いたアニオンの塩基性度が大きくなるにつれて、OsO4の正四面体構造から三方両錐構造へと徐々に歪んでいくことが明らかとなった。さらに、フッ化物イオン付加体は、ベンジルアルコールの酸化においてOsO4よりも高い収率で、ベンズアルデヒドを生成物した。この反応性向上の要因について、速度論的検討およびDFT計算を用いた考察を行うと、アニオン付加体にアルコールが配位した6配位の中間体を形成することが重要であると示唆された。 さらに、カルボン酸アニオンを用いて生成した付加体は、より高難度なC-H結合の活性化に対しても高い酸化活性を示し、速度論的検討およびDFT計算による検討の結果、C-H結合の均等開裂後に、アニオン付加体と基質ラジカルが付加体を形成する過程が酸化において重要であると示された。 最後に、OsO4を触媒として用いたアルカンの酸化反応について検討し、配位性アニオンの添加効果についても調べた。過酸化水素を酸化剤として用いることで対応するアルコールが生成物として得られ、本触媒反応系に安息香酸アニオンを加えるとOsO4のみを用いた場合に比べ反応速度が14倍も向上し、アニオン配位による酸化活性向上が触媒反応にも適用できることが明らかとなった。この知見から、細孔表面にカルボキシ基を有するメソポーラスシリカにOsO4を担持した固体触媒を合成し、触媒反応に用いると、この触媒もOsO4より高い酸化活性を示し、触媒の再利用などを含めた、不均一触媒系におけるさらなる展開が期待できる結果が得られた。
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