研究課題
人工交配により作出したraf22raf36二重変異体がraf36変異体よりも顕著なABA応答性と高いストレス耐性を示すことを見出したことから、Raf36を始めとする複数のグループC Raf型プロテインキナーゼがABA応答の負の制御因子として機能することが明らかとなった。一方で、これらRaf型プロテインキナーゼの欠損変異体は通常条件下において、野生株よりも小さい個体サイズを示したことから、植物の生長制御に重要な遺伝子であることが示唆された。SnRK2によるRaf36のリン酸化の生理学的意義を見出すために、シロイヌナズナのRaf36-HA過剰発現系統を用いてABA処理後のRaf36タンパク質の安定性を免疫ブロット法により評価したところ、Raf36タンパク質がABA処理依存的に分解誘導を受けることが示された。また、このようなABA誘導性のRaf36の分解は、ABA依存的なSnRK2の活性化が起こらなくなるPP2Cの機能獲得型変異体(abi1-1C)において見受けられなくなったことから、SnRK2によるRaf36のリン酸化はRaf36の分解誘導に寄与することが明らかとなった。これによりSnRK2-Raf36経路が植物の生長とストレス応答のバランス調節を担うことが示された。さらに、野生株とraf22raf36変異体を用いた比較リン酸化プロテオーム解析により、Raf22/36の下流でリン酸化調節を受ける候補タンパク質の選抜に成功した。
2: おおむね順調に進展している
Raf36を始めとするRaf型プロテインキナーゼのABA応答における役割を明らかにした。また、SnRK2によるRaf36のリン酸化の意義も明らかにできた。さらに、比較リン酸化プロテオーム解析により、Raf22/36が直接もしくは間接的にリン酸化制御している可能性がある複数の候補基質タンパク質の選抜にも成功したため。
本年度の研究により、Raf36を始めとするグループC Raf型プロテインキナーゼが、ストレス条件下ではABA応答に抑制的に働く一方で、通常条件下では生長促進に重要な役割を果たすことが明らかとなった。これらの結果から、ストレス条件下で活性化したSnRK2は、Raf36をリン酸化しそのタンパク質分解を誘導することで、生長戦略を生長促進からストレス応答の増強へと大きく転換させるというモデルが想定される。したがって、今後はRaf22/36に加え、それらと近縁なグループC Raf型プロテインキナーゼの欠損変異体を作出し、それらの植物生長における重要性を評価する。また、比較リン酸化プロテオーム解析により選抜した基質候補因子の機能解析を進めることで、Raf36が植物生長をどのように促進しているかの分子メカニズムの解明に差し迫る。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻: 118 ページ: e2100073118
10.1073/pnas.2100073118
Plants
巻: 10 ページ: 1443~1443
10.3390/plants10071443
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2021/20210721_01.html