研究課題/領域番号 |
21J10968
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
安倍 紘平 東京農工大学, 大学院生物システム応用科学府, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 粒子安定化エマルション / 乾燥 / 圧縮による変形と合一 / 電荷濃度 / 粒子間相互作用 |
研究実績の概要 |
粒子安定化エマルション内の電荷濃度によって、エマルションの乾燥形態が変わることを明らかにした。本研究では、水中に油滴が分散しており(O/W型)、水と油との界面に粒子が吸着しているエマルションを乾燥させた。乾燥により水が蒸発することで分散油滴が圧縮される。水中の電荷濃度が低い場合、分散油滴は乾燥によってハニカム状に変形し、乾燥終盤まで合一しない。一方、電荷濃度が上昇すると油滴は頻繁に合一を繰り返し、いびつな形状になる。乾燥中の油滴数と油滴の平均面積を追跡することで、これら2パターンの境界が電荷濃度0.1 Mあたりにあることを示した。 低電荷濃度の場合にみられるハニカム状の変形は、界面活性剤分子で安定化させたエマルションの乾燥過程においても観察されている現象であることから、この場合、粒子で被覆されていても油水界面は液体的であり、容易に変形できる状態にある。一方、電荷濃度が高い場合のいびつな変形は、粒子被覆液滴特有の現象であり、これは界面が固体的であることを示唆している。つまり、電荷濃度によって界面の液体性/固体性が切り替わっているといえる。 この原因についてさらに検証するため、粒子表面に蛍光分子を吸着させ、油水界面周囲の粒子状態を直接観察した。その結果、電荷濃度が低い場合、粒子は連続相中に均一に分散していたのに対し、電荷濃度が高い場合、粒子は連続相中には分散せず油水界面で凝集していた。この凝集が油水界面の固体性に寄与していると結論づけた。電荷濃度が低い場合、粒子間力は斥力が優勢となっているため、界面でもある一定距離を保ちながら粒子が吸着している。しかし、電荷濃度が上昇すると粒子間引力が優勢になるため、界面周囲で粒子が固体殻を形成する。したがって、電荷濃度を上げることで粒子を油水界面付近で凝集させることができ、液液界面の固体性を発現させることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で述べていた、乾燥中の油滴形態と油滴合一の定量的な評価手法の確立は達成できている。さらに、電荷濃度が粒子状態に与える影響についても、粒子に蛍光分子を修飾させることで既に検証を行っている。これらのデータをもとに、電荷濃度から油滴の合一形態の違いに至る論理的な道筋を示すことができた。当初の研究計画で述べていた、電荷濃度と油滴合一度との関係性を記述する数理モデルを提案するという段階にはまだ至っていないものの、ここまでの成果で国際論文が受理されており、学会発表も行えていることから、研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
乾燥に起因する液滴圧縮および合一過程について、さらに詳細な検討を行う。粒子安定化液滴が圧縮されて合一するために必要な圧力がどのくらいの値なのかがまだわかっていない。エマルション液滴の合一安定性を制御するうえで、この値を予測することは極めて重要だ。 今後の研究では、この臨界圧力の概算を試みたいと考えている。分散油滴の圧縮度合いを正確に評価するためにはエマルション内の液滴サイズが揃っていることが望ましい。そこでマイクロ流体デバイスを利用して単分散型の粒子安定化エマルションを作製し、エマルションを乾燥させる。乾燥によって液滴が圧縮され、変形する過程を直接観察し、得られた観察画像から解析を行う。圧縮によって変形している油滴の曲率半径から、油滴にかかっている圧力を概算する。油滴が合一する直前に液滴にかかっている圧力が臨界圧力に相当する。粒子濃度や乾燥速度を変えたうえで臨界圧力の概算を行い、これらの因子が臨界圧力にどれほどの影響を与えているのかを明らかにする。
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