初年度は水中に不揮発性油滴が分散した液を乾燥させ、分散油滴の圧縮過程を観察したが、今年度は水中に固体微粒子が分散した液を乾燥させ、乾燥途中でおこる固体粒子の圧縮・充填過程に着目した。分散油滴は"柔らかい"ため連続相も水が蒸発して油滴が圧縮されると油滴が変形するのに対し、固体粒子は"固い"ため周囲の水が蒸発しても粒子は変形しない。 今年度は特に、気液界面の角度が粒子充填面の形状に及ぼす影響について検証した。先行研究では、粒子分散液の液滴乾燥では基板と気液界面とがなす接触角の大きさに応じて乾燥後の粒子膜形状に違いが生じることが分かっているが、気液界面の角度に応じて粒子膜の形状がどのように時間変化しているのかについては詳細な研究がなされてこなかった。成膜プロセスの質を制御するうえではこのような知見が必要不可欠であると考え、気液界面の角度を任意に設定したうえで粒子分散液を狭い流路内に閉じ込めて、乾燥による成膜過程を直接観察した。 その結果、乾燥初期では粒子膜は気液界面と平行に成長していたのに対し、乾燥が進むにつれて粒子充填面 (粒子膜と分散液との間の境界面) の角度は液流れ方向に対して垂直に変化した。このような現象が起こる原因として、傾いた粒子充填面によって粒子の流れる方向が変わり、流路の片側サイドに粒子が溜まりやすくなるためであると仮説を立てた。この仮説に基づき定量的な解析を行うと、流路の両サイドにおける成膜速度の差を精度良く記述できることを示した。本研究により、気液界面の初期形状だけでなく粒子充填面の傾き度合いも膜の最終的な形状を決めうる重要な因子であることを見出した。 以上の研究内容で、化学工学会の第88年会で発表を行い、また、現在物理化学分野の国際ジャーナルであるPhysical Chemistry Chemical Physics誌に投稿し、現在査読を受けている最中である。
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