研究課題/領域番号 |
21J10984
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
濱口 和馬 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 液晶 / 自己組織化 / 膜 |
研究実績の概要 |
流動性と秩序を併せ持つ液晶を利用して、規則的なナノチャネル構造と新たな水処理機能を有する液晶ナノ構造分離膜の研究が近年行われている。液晶ナノ構造分離膜はチャネル構造や官能基の制御により、水中の不要物除去のみならず、高性能な選択的物質透過材料へと応用できる可能性がある。本研究では、液晶の分子設計と集合構造制御を基盤とする物質輸送・分離機能、特に光学分割機能を有する材料開発を目指している 本年度はまず、双頭型両親媒性分子のスペーサー部位が液晶の集合構造に及ぼす影響をより詳細に調べるため、スペーサー長が異なる双頭型のカチオン性両親媒性分子を新たに設計・合成し、液晶性を調べた。得られた分子は層状のスメクチック液晶相を示すことが確認され、スペーサー長が液晶相の温度域に影響を与えることが分かった。また、分子を双頭型にすることで結晶化が抑制され、液晶相の温度域が広がるという結果も得られ、分子構造の知見を集積することができた。 設計した双頭型スメクチック液晶を液晶相で重合することで水処理膜を作製した。得られた水処理膜は、高いウイスルろ過性能や、サイズの小さい塩化物イオンよりもサイズの大きい硫酸イオンを透過させる特異なイオン選択性を示すことが分かった。このイオン選択性は、同様のカチオン性基を有するカラムナー液晶や双連続キュービック液晶から作製した膜と類似しており、液晶構造よりもナノチャネルの官能基が物質の透過選択性に影響を与えることを示唆している。また、光学活性であるジオール部位を有する液晶ナノ構造水処理膜の開発にも成功し、膜中の水分子の水素結合がカチオン性の膜とは異なることを示唆する結果も得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の結果、双頭型のカチオン性スメクチック液晶モノマーの設計により、高いウイルス除去機能やイオン選択的透過能を有する水処理膜の開発に成功した。この成果は論文として掲載され、複数の国際学会での発表を行った。また、光学活性部位を有する液晶性モノマーの開発にも成功している。最終的な目標である光学分割膜の開発には至っていないが、チャネルの官能基と、ナノチャネル中の水分子の水素結合構造の相関についても研究を進めており、目的の機能に向けての液晶の分子設計指針の開拓にもつながると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究において得られた光学活性ジオール部位を有する液晶ナノ構造膜を利用して、ろ過による光学分割の実験を行う。具体的には、ろ過前後の溶液のエナンチオマー過剰率や透過モル流束、R体とS体のモル流束比を評価する。 また、現在得られたキラル液晶では光学分割に必要な相互作用点や不斉中心が少なく、十分な分離能が得られない可能性も考えられる。そこで、新たにオリゴペプチド部位を有する液晶性モノマーの分子設計を行う。ペプチドの側鎖に重合性液晶部位を導入し、水素結合により螺旋ナノチャネルを形成する液晶を設計・合成する。得られた化合物については偏光顕微鏡観察、示差走査熱量測定、X線回折測定、CDスペクトルを用いて液晶性やキラリティーを評価する。モノマーを液晶状態で光重合してキラルチャネルを有する膜を作製し、ろ過による光学分割能を評価する。最終的には、先端計測や分子動力学シミュレーションにより詳細な液晶ナノ構造や分離機構を理解することを試みる。
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