流動性と秩序を併せ持つ液晶を利用して、規則的なナノチャネル構造と新たな水処理機能を有する液晶ナノ構造分離膜の研究が近年行われている。液晶ナノ構造分離膜はチャネル構造や官能基の制御により、水中の不要物除去のみならず、高性能な選択的物質透過材料へと応用できる可能性がある。本研究では、両親媒性液晶の分子設計と集合構造制御を基盤とする物質輸送・分離機能を有する材料開発を目指している 本年度は、ジオール部位を有する液晶ナノ構造水処理膜中の水分子の水素結合について、放射光を用いた高分解能軟X線発光分光法による構造解析を行った。ヒドロキシ官能基を持つナノチャネルに閉じ込められた水分子は、バルク水に近い水素結合構造を示し、ジオールのヒドロキシ基と直接相互作用していた。この水素結合構造は、カチオン性官能基を導入した自己組織化チャネルに閉じ込められた水分子がより歪んだ水素結合をとることとは対照的である。これはチャネル官能基が狭い空間で水素結合を供与・受容する能力の違いに起因すると考えられる。 また、新たな両親媒性分子を設計・合成していく中で、脂環式メソゲンとオキシエチレン部位を含んだ両親媒性分子が、SmA-SmB-SmAという特異なリエントラント液晶相転移を示すことを発見した。電子密度プロファイルと分子動力学シミュレーションにより、このリエントラント現象は、剛直なメソゲン部分のパッキングと柔軟なオキシエチレン部位のコンフォメーションが温度によって段階的に変化することで引き起こされていることが分かった。また、リチウム塩と複合化することで、伝導度が温度によって多段階に変化する液晶性イオン伝導材料の開発にも成功した。
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