研究課題/領域番号 |
21J11016
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
城下 郊平 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / CRISPR-Cas9 / 静止期維持培養 |
研究実績の概要 |
遺伝子編集後造血幹細胞(HSC)が元の表現型および機能を維持している必要があったため、①HSCに最適化した遺伝子編集条件の決定、②編集後HSCの培養条件の最適化とHSCの幹細胞機能評価、の2つに取り組んだ。 ①新鮮HSCの編集効率は低効率(20%未満)であったが、SCFとTPOを高濃度で長時間(1日程度)培養することによってHSCの編集効率は最大化した(60-70%)。トランスクリプトーム解析で新鮮HSCと前培養後HSCを比較検討したところ核内輸送機構の変化が見出された。また、編集後の培養条件(サイトカイン)に編集効率は依存しておらず、遺伝子編集前の培養条件がHSCの遺伝子編集効率を規定していた。HSCに最適化した遺伝子編集条件を決定した。 ②生理的因子のみで骨髄模倣環境を体外で再現し、HSCを静止期に維持できる静止期維持培養を用いた。古典的培養条件(高サイトカインを用いた増殖培養)、近年新たに報告されたPolyvinyl alcohol(PVA)の2条件を比較対象とし、編集後HSCの機能解析を短期(編集後2日目)と長期(編集後7日目)に行った。静止期維持培養群は早期・長期いずれも表面マーカー上のHSC(CD150+CD48-LSK)が高頻度に維持されていた。細胞周期解析では早期には前培養の影響で静止期細胞割合は低く、長期の時点までにG0細胞割合が増加していた。トランスクリプトーム解析、コロニー形成能、移植後再構築能の解析では、いずれも増殖培養に比べ、静止期維持培養でHSCの機能が高く維持されていた。 以上の結果を元に、HSCの表現型と機能を維持した新しい遺伝子編集法を確立し、論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝子編集後HSCが幹細胞機能を維持し、生体内と同様に静止期状態に維持する条件を決定した。AAVベクターを用いたHDRにも取り組み、Rosa遺伝子座にレポーター蛋白(GFP)のknock-inに成功した。主要なCHIP関連遺伝子のgRNA効率確認は終了し、一部の遺伝子については静止期維持培養やコロニーアッセイなどで評価を行ている。臍帯血HSPCについてはNHEJベースのknock-outに成功し、静止期維持培養がマウスと同様の結果に繋がることを確認している。研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
①CHIP変異HSCが有利に増加する条件の同定 培養用条件の最適化を通じて各CHIP遺伝子変異HSCが特異的に自己複製能を亢進させる微小環境を探索する。AAVベクターを用いるとknock-outクローンを正確に同定できるが、AAV感染によって幹細胞機能が低下してしまうことが報告されている。この問題点を解決するためにTet2などconditional knock-outマウスを準備する。 ②遺伝子編集法の改善 正常HSCと同様に、遺伝子編集後HSCも静止期維持培養下で静止期性を再獲得することを見出している。しかし、遺伝子編集前の高サイトカイン刺激(前培養)はHSCの機能を不可逆的に低下させ、前駆細胞への分化誘導が生じてしてしまう。前培養を省略し、静止期状態のまま高い遺伝子編集が達成できれば機能的HSCの喪失を回避できる。これらの技術改善によって、CHIP変異HSCの動態をより詳細に観察可能となりうるため、並行して編集条件の改善にも取り組む。
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