本研究は腸管幹細胞の機能に重要なSREBP-1aが調節する脂肪酸の特定とその機序を解明し、脂質による腸管幹細胞の機能調節が絨毛構造を変化させることを明らかにすることを目的に行ってきた。これまでに腸管の陰窩に存在する腸管幹細胞やパネート細胞内におけるSREBP-1aが欠損することで、細胞内の脂肪酸組成が変動し、それに伴う特定の脂肪酸の減少が腸管幹細胞の分化・増殖機能を障害することを明らかにした。今年度は、SREBP-1a全身欠損あるいは細胞種特異的SREBP-1a欠損マウスを用いた生体の実験やそれらの遺伝子改変マウスから作製した腸管オルガノイドを用いた実験により、特定の脂肪酸の変調が腸管幹細胞の分化・増殖を制御する機序の解析を行い、タンパク質の脂肪酸修飾の変化が、腸管幹細胞の機能に重要なシグナル伝達を障害し、分化・増殖機能を低下させることを明らかにした。このシグナル伝達はパネート細胞から腸管幹細胞へシグナル活性化因子が分泌され、腸管幹細胞内で作用することで活性化するが、タンパク質の脂肪酸修飾の変化がパネート細胞から腸管幹細胞へのシグナル活性化因子の分泌を障害することを明らかにした。さらに、脂肪酸組成の変動に伴う腸管幹細胞の機能障害は腸管を構成する細胞の組成を変化させ、腸管を脆弱な状態にすることが、薬剤による炎症誘導の実験から明らかとなった。 今後、SREBP-1aの活性制御などにより、腸管陰窩を構成する細胞内の脂肪酸を管理する手法を開拓し、腸管内部構造の制御から生活習慣病や炎症性腸疾患などの治療法の開発を目指す。
|