研究実績の概要 |
本研究課題では金属錯体触媒をベースとして理論と実験の融合研究を展開し,「プロトンの量子効果」と「反応場の効果」の能動的制御,ならびに多電子・多プロトン移動反応のメカニズム解明を目指している.メカニズム解明の足掛かりとして多電子・多プロトン移動系の代表例である二酸化炭素還元反応を扱う.本年度は「反応場の効果」に注目した研究を主体的に行った.鉄ポルフィリン錯体(iron(III) tetraphenylporphyrin)を用いて電気化学的条件下で触媒活性の溶媒依存性を調査し,触媒活性が溶媒種に大きく影響されることを明らかにした.分光電気化学測定によって,反応機構が溶媒によって変化することも示唆された(研究成果:Angew. Chem. Int. Ed., 2021, 60, 22070-22074.).また,銅ポルフィリン錯体(copper(II) tetrakis(pentafluorophenyl)porphyrin)を用いた電気化学的二酸化炭素還元反応においても,溶媒種が触媒活性に大きく影響することを明らかにした (研究成果:Chem. Commun, 2022, 58, 2975-2978.).「プロトンの量子効果」に注目した研究に関しては,研究の基盤となるヒドロキノン配位子を有する新規鉄ポルフィリン錯体(5,10,15-triphenyl-20-(2,5-dihydroxyphenyl)porphyrinato iron(III) chloride)の合成に成功し,その電気化学的性質を調査した(研究成果:Chem. Lett, 2022, 51, 224-226.).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度は「反応場の効果」に注目した研究に関して大きな進展があった.具体的には鉄ポルフィリン錯体(iron(III) tetraphenylporphyrin)を用いた電気化学的二酸化炭素還元反応に対する,触媒活性の溶媒依存性を調査した.その結果,触媒活性が溶媒種に大きく影響されることを明らかにした.アセトニトリル中での活性向上は特に顕著であり,触媒回転頻度は従来系(N,N-ジメチルホルムアミド中)と比較して6万倍以上,向上した.これは,電気化学的二酸化炭素還元反応において反応場の効果の重要性を示す成果である.展開例として,銅ポルフィリン錯体(copper(II) tetrakis(pentafluorophenyl)porphyrin)を用いた電気化学的二酸化炭素還元反応の調査も行い,鉄ポルフィリン錯体と同様にアセトニトリル中で触媒活性が向上することを明らかとした.さらに,「プロトンの量子効果」に注目した研究の基盤となる,ヒドロキノン配位子を有する新規鉄ポルフィリン錯体(5,10,15-triphenyl-20-(2,5-dihydroxyphenyl)porphyrinato iron(III) chloride)の合成にも成功した.これらの成果は全て学術論文として出版済みである.以上の理由から,本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断する.
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