研究課題/領域番号 |
21J11071
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
美野 名波 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 胸腺 / 中枢性免疫寛容 / 自己免疫 |
研究実績の概要 |
2021年度は、RANK/OPGの胸腺上皮細胞(TEC)特異的欠損マウスを用いて、TECサブセットへの影響や胸腺T細胞、自己反応性T細胞の負の選択や制御性T細胞(Treg)分化への影響を精査した。その結果、TEC特異的RANK欠損マウス・OPG欠損マウスともにTECサブセットの増減に加え、Tregを含めた胸腺細胞の細胞数などに有意な変化がみられた。自己反応性T細胞の検出には複数のpMHCテトラマーを用いて定量的な評価を行ない、RANKシグナルの強弱による負の選択の変化を初めて明らかにし、RANKシグナルによって負の選択のバランスが精緻に調整されているという仮説を支持するものであった。また、特定のTCRβ鎖を発現するレトロジェニックマウスを用いて、胸腺細胞のTCRα鎖を次世代シークエンス解析にて網羅的に評価したところ、TEC特異的OPG欠損によりT細胞受容体のレパトアが大きく縮小していることを見出した。さらにT細胞移入モデルを用いて、TEC特異的OPG欠損により変化したT細胞受容体レパトアを有する胸腺細胞の移入で自己免疫の発症が抑制された。 本研究と並行して、胸腺髄質上皮細胞自体の多様性に着目し、2018年に初めて報告されたthymic tuft cellに関する研究も実施した。single-cell RNA-seqデータを用いてthymic tuft cellに転写因子Sox4が選択的に高発現していることを見出したためTEC特異的Sox4欠損マウスを作出して、thymic tuft cellが顕著に減少することを示した。さらに、Sox4はLymphotoxin β受容体(LTβR)欠損によって発現が減少することから、LTβR-Sox4 axisがthymic tuft cellの分化に関与していることが示唆された。以上の研究結果を総括して原著論文として国際学術誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は胸腺上皮細胞特異的OPG欠損マウスの自己免疫発症への関与について実験的に検証することを目標としていた。まずはその基盤となる胸腺上皮細胞や胸腺細胞の変化、またT細胞受容体レパトアの変化を複数の観点から明らかにした上で、自己免疫発症への関与を確認した。自己免疫発症モデルマウスとの交配ではなく、T細胞移入モデルを用いることとしたが、胸腺上皮細胞でOPGを欠損することがT細胞受容体のレパトア変化を介して自己免疫発症を抑制していることが示唆された。 また、当初は予定していなかったが、負の選択を制御する胸腺髄質上皮細胞自体の多様性にも着目し、関連する新たな研究テーマとしてthymic tuft cellの分化制御機構の解明に取り組んだ。転写因子Sox4を同定し、胸腺上皮細胞特異的欠損マウスの作出、thymic tuft cellへの影響の検証まで行なうことができ、成果を国際学術誌に報告した。 以上の結果から、2021年度は研究計画がおおむね順調に進展したと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
作製したRANK, OPGの胸腺上皮細胞(TEC)特異的欠損マウスを用いて、2021年度に行なった自己免疫病態モデル以外に、各種がん細胞株の移植実験、盲腸結紮穿刺による腹膜炎実験(疑似感染モデル)などを行い、「自己」の認識の変化に加えて、外来抗原などの「非自己」の境界シフトを精査する。 また、2021年度に見出したT細胞受容体レパトアの変化に関して、変化したT細胞受容体の特性をCDR3配列の長さや使用アミノ酸などから評価し、必要に応じて特定のT細胞受容体についてはレトロジェニックマウスを作製し、正負の選択や自己免疫疾患発症の有無などを検証していく。 さらに、2021年度以前に実施したTEC特異的OPG欠損マウスの胸腺髄質上皮細胞のbulk RNA-seqデータを用いて、自己抗原の発現変化に加え、多様なサブセットを有する胸腺髄質上皮細胞のうち、どのサブセットが優先的に増加しているのかを推測した上で、フローサイトメトリーなどを用いて詳細なTECサブセット解析を進めていく。以上を統括して、RANKシグナリングによる精密な胸腺上皮細胞の制御の意義、T細胞選択を介した中枢性免疫寛容や自己免疫病態への関与についてのメカニズムを明らかにしていく予定である。
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