二組の英米作家間の影響関係について考察した。対象としたのは、アメリカ作家マーク・トウェインとイギリス作家チャールズ・ディケンズ、及び、アメリカ作家ポール・オースターとシャーウッド・アンダーソンである。前者に関しては主として、トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』(1885))とディケンズの『大いなる遺産』(1861)の影響関係を考察した。両者の接点において、戦時中に発行された政治雑誌『ハーパーズ・ウィークリー』が鍵となることを国内学会で提唱した。後者に関しては、オースターの『ムーン・パレス』(1889)とアンダーソンの『卵の勝利』(1921)等の諸作品との影響関係を研究し、この関係においてコロンブスの表象が重要であることを明らかにした。また、影響関係の考察を深めるために、ニューヨーク公立図書館Berg Collectionで、オースターの原稿の調査、および、関連資料の文献調査を行い、原稿にもアンダーソンの影響を見出した。 これらの影響研究を通して(後発作家が先行作品の何に着眼したかに注目することで)、先行作家の作品を再考した。トウェインとディケンズの研究を基に、南北戦争との関連からディケンズを考察した。また、これまで批評的関心となってきたディケンズの少年時代の労働経験が、その関連で注目されてこなかった作品や場面に反映されていることを見出し、所属機関の刊行物で発表した。一方では、オースターが、アンダーソンのコロンブスへの言及の仕方に関心を抱いていた可能性を勘案した。それを手掛かりに、アンダーソン作品を再考した。作品の歴史的背景の考察を行いながら、コロンブスやアメリカ先住民の表象の観点からアンダーソン作品の再評価を行い、海外の学術雑誌に論文を投稿した。
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