本年度はまず,昨年度に分析対象とした5つのダム集水域(以下,ダム流域)において,地質および地質に影響される斜面形状特性が,降水量に対する流量の応答の非線形性に及ぼす影響に着目した.そのために,各流域において月別流量と先行降雨量の関係性を近似曲線に当てはめ,その曲線のパラメータを流域間で比較した.その結果,地質の浸透性が高く,傾斜が緩やかな火山岩(第四紀)の流域や花崗岩の流域において,月別流量と先行降雨量の間に下に凸の明瞭な非線形関係が見られた.先行研究では豊水流量などの高水期の流量は,低水期の流量と比較して地質に影響されにくいことが指摘されているが,月別流量に着目した本分析では,流量の多い時期においても,上記のような地質,斜面形状特性による流況の差異が見られた.本分析結果は昨年度の成果と併せ,人工林の管理状況の変化が流量に及ぼす影響を理解する上で,流域の地質および斜面形状特性をも考慮する重要性を示唆している. さらに本年度は,衛星観測を用いた降水量の推定値の精度向上に取り組んだ.本分析は当初の計画にはなかったが,特に水文モデルを用いて降水量や土地被覆変化が流量に及ぼす影響を分析する上では,正確な降水量データが不可欠だと考えたために実施した.具体的には,マイクロ波放射計の観測をベースとした全球衛星降水量マップ(GSMaP)と衛星搭載型のレーダー観測(Ku-band Precipitation Radar)による降水量推定値とを季節ごとにヒストグラムマッチングさせることで,GSMaPの降水量が持つバイアスを補正した.アメダス解析雨量を用いた検証により,本分析手法が夏季以外の季節においてGSMaPの平均降水量を適切に補正できることがわかった.本分析の成果は現在論文として投稿準備中である.
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