棘皮動物は五放射相称という特殊な体制を獲得しているが、五放射相称という独特のパターンを形成する発生機構は未知である。棘皮動物の発生過程で最初に五放射相称の形態を示すのは水腔と呼ばれる体腔組織である。水腔は発生の進行と共に水腔葉と呼ばれる5つの突起を生じ、また環状に変形して五放射相称の構造となる。我々は、五放射相称体制の発生機構と進化過程を理解するため、この水腔における五放射相称パターンの形成機構の解明を目標とし、マナマコApostichopus japonicusを主材料種として解析を行なってきた。 本年度は昨年度までの研究で明らかになった、水腔の内部で領域ごとに異なった発現パターンを示す遺伝子群について、水腔における五放射相称パターンの形成に関与しているか否かを検証するための解析を実施した。まず、マナマコの幼生において遺伝子機能解析実験を行うための実験系の確立を目指した。複数の手法を検討した結果、薬剤投与によるシグナル経路の活性化・阻害実験や、卵への顕微注入によるゲノム編集技術が有効であることが確認された。マナマコを用いたこれらの実験系は前例がなく、重要な成果である。今後、これらの実験系を活用して遺伝子の機能を検証することで、五放射相称パターンの決定機構が明確になっていくと期待される。 さらに、マナマコと、その他の棘皮動物の遺伝子発現パターンの比較を行うため、主要な棘皮動物の系統(ウニ類、ヒトデ類、ウミユリ類)の幼生を用いて遺伝子発現パターンの解析を試みた。このうちウニ類、ヒトデ類では一部の遺伝子の発現パターンを検証できたが、マナマコの水腔で発現する遺伝子の多くはウニ類、ヒトデ類の水腔では発現が認められなかった。今後、検証対象とする遺伝子を増やすとともに、実験系のさらなる改善に取り組むことで、水腔における遺伝子発現パターンの保存性が明らかになっていくと期待される。
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