研究課題/領域番号 |
21J11148
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
Goo Zi Lang 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 金属硫化物クラスター / 錯体化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、チオラト錯体配位子を保護基として用いた混合金属型の金属硫化物クラスターの一般的な合成法の確立と混合金属型クラスターに固有の特性の探索を目指している。具体的な合成手法としては、単一金属硫化物クラスターに対して第二の金属又はチオラト錯体を反応させることによる、事後修飾反応を主たる方法として検討し、次善策として2種の金属イオンを同時に集積化する自己集積反応を試みた。得られた混合金属型クラスターは、組成分析を行い、2種の金属比を精密に評価するとともに単結晶X線構造解析によりその内部原子配列を決定した。混合金属型クラスターには、分光学的特性/磁気特性/触媒活性の面で特異な性質が期待されるため、特に、混合金属が協奏的に働きやすい、発光特性などの分光学的性質を中心に調査を進めた。今年度、五員環をもつ八面体チオラト錯体配位子の中心金属をロジウムからイリジウムに変えると硫化銀クラスターの発光性を約3倍向上させることができた。さらに、この硫化銀クラスターを銅イオンや金イオンと反応し混合金属硫化物クラスターの合成と同定を達成した。単離した混合金属硫化物クラスターは元の硫化銀クラスターと比べて吸収波長と発光波長が高エネルギー側にシフトした。金銀硫化銀クラスターは元の硫化物クラスターより強く光っている。銀銅硫化物クラスターの場合は発光強度が弱くなった。金属イオンとの反応によって硫化銀クラスターの発光波長と強度を調整した。この結果は国際論文(Chem. Asian J.)、国内学会(錯体化学会第71回討論会)と国際学会(PACIFICHEM 2021)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、錯体配位子の中心金属を変えることにより五員環をもつ八面体チオラト錯体配位子で保護されている硫化銀クラスターを合成し、その発光性を約3倍向上させることができた。さらに事後修飾反応で硫化銀クラスターを銅イオンや金イオンと反応し混合金属硫化物クラスターの合成と同定を達成した。最近では、より立体障害持つ六員環を導入した八面体チオラト錯体配位子を用いて3種類の硫化銀クラスターの合成を確立した。以上のように、研究計画は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、令和3年度で新しく得られた六員環を有する八面体チオラト錯体配位子を保護配位子として用いた硫化銀クラスターの同定に取り組み、さらに他の金属イオンとの反応から混合金属硫化物クラスターの合成を行う。まず、令和3年度と同様にd10電子数の金属イオン、銅、金、亜鉛、インジウム、鉛と反応させ、発光挙動の調整を模索する。次に、硫化銀クラスターを常磁性金属イオン、例えば鉄、コバルト、またはマンガンと反応して、得られたクラスターの特徴な磁性発現を目指す。クラスター構造と元素を正確に同定するために、X線構造解析だけではなくXANES、異常散乱、SQUID及び量子計算を実施する。カルボキシル基を持つ錯体配位子は、水素結合で超分子を形成できることが知られている。申請者はシステインを含む錯体配位子と硫化モリブデンを反応し、多孔性超分子の合成を達成した。このクラスターは固体中で2次元のフレームワークを形成し、1次元のチャネルが存在しカチオン伝導体として機能する可能性がある。今年度中カルボキシル基を持つ錯体配位子に保護されている硫化モリブデンクラスターの伝導測定を行う。そして、カチオンの違いによって伝導挙動はどのように変わることを調査する。具体的には、カチオンをアルカリ金属イオン、遷移金属イオンまたは有機カチオンに変え、X線構造解析で構造変化を確認し、カチオンの流動性を精密に論じる。
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