本研究は、胚動脈血管内皮細胞から分化する造血幹細胞の発生過程を解明することを目的として行った。具体的には、ヒストンの脱メチル化酵素であるLSD1/KDM1Aの変異体ゼブラフィッシュの解析を行い、造血幹細胞の発生過程におけるLSD1/KDM1Aの役割の解明を目指した。本年度は、標的遺伝子の同定に成功した前年度の成果を踏まえ、LSD1/KDM1Aの作用メカニズムを解明した。 LSD1/KDM1Aの作用メカニズム解明には、LSD1/KDM1Aと協働する因子の特定とその機能の解明が不可欠であると考えた。そこで、候補遺伝子のノックアウトゼブラフィッシュ系統をCrispr-Cas9システムを用いて樹立し解析を行った。しかし、これらの遺伝子のノックアウトでは有意な造血肝細胞の減少は観察されなかった。そこで、これらの系統を掛け合わせたところ、LSD1/KDM1Aの変異体と同等の表現型を示す遺伝子ノックアウトの組み合わせが見つかり、LSD1/KDM1Aの造血幹細胞発生における協働因子が示唆されることとなった。興味深いことに、この結果は過去のマウスの報告とは一致しない部分を含んでおり、この違いを解析することで造血幹細胞発生の進化的に重要な側面にも迫る可能性があると考えられる。 本研究の成果は、造血幹細胞の発生過程を解明する上で重要な知見を提供し、将来的には造血幹細胞を治療に利用するための基盤技術の開発につながると期待される。また、LSD1/KDM1Aと協働する因子の同定や、他の動物種との比較により、造血幹細胞発生の進化的な側面にも貢献することができると考えられる。
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