研究課題/領域番号 |
21J11228
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
眞部 夢大 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 環状π共役系 / 脂肪族ポリケトン / 構造柔軟性 / 結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
アセチルアセトン誘導体を繰り返し単位とする鎖状ポリケトンを、末端選択的シリル化と酸化的カップリングを順次繰り返すことで、最大20量体まで伸長させることが可能な合成手法を確立した。その結果として、環状π共役系構築の前駆体となる鎖状ポリケトン合成の基盤を構築した。 得られた鎖状ポリケトンに対して網羅的な単結晶・粉末X線構造解析を行うと、鎖状ポリケトン2-4量体はその鎖長に応じた固有のコンフォメーションを有している一方で、5量体以上では鎖長に依らず同様のパッキング構造を有していることが分かった。このことから、鎖状ポリケトンは5量体を境界として、その結晶化挙動が変化するという鎖長に依存した性質が明らかとなった。 得られた鎖状ポリケトンに対して、分子内環化およびその変換反応による環状π共役系構築を試みた。鎖状ポリケトンの直接的な分子内環化を検討したところ、複数のカルボニル基が共存するためか複雑な混合物を与えるのみであった。そこで、鎖状ポリケトンの1,4-ジケトン部位を全てフラン環へ変換することにより、末端同士でのカップリング反応による分子内環化を達成した。この分子内環化した生成物から誘導される環状ポリケトンに対して、ヒドラジンを作用させることで、全ての1,3-ジケトン部位がイソピラゾール環へと変換された環状ポリイミンの合成に成功した。続いて、環状ポリイミン4-6量体に対して種々の酸化剤や反応条件の検討を行い、環状π共役系の構築を目指した。既報の鎖状ポリイミンへのπ共役系形成反応に従って、p-クロラニルを酸化剤としたエチレン部位の酸化を試みたところ、環状ポリイミンのエチレン部位が部分的に酸化される挙動が観測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多彩な環サイズの環状π共役系を構築するために、鎖長が異なる鎖状ポリケトンの単分散合成法の確立およびその分子内環化・イミン化・酸化反応の検討を行なった。 最大20量体まで合成可能な鎖状ポリケトンは、その重合度に対して網羅的な結晶構造解析を行うことで、5量体を境界としてその結晶化挙動が変化することを見いだした。さらに、鎖状ポリケトンを分子内環化・イミン化することで、鎖状ポリケトンから環状ポリケトンを経由した環状ポリイミンへの変換を達成した。また、環状ポリイミン4-6量体に対して酸化剤のp-クロラニルを作用させることで、架橋エチレンが部分的に酸化されるという挙動が観測された。 これらの結果から、ポリケトンの構造柔軟性を活かした環状π共役系の構築という本研究の目的に対して、前駆体としての鎖状ポリケトンのライブラリー構築、分子内環化とイミン化による環状ポリイミンの合成、続く酸化反応までの検討を行うことができた。さらに、鎖状ポリケトンの網羅的合成とその結晶構造解析により、その鎖長に依存した結晶性変化の詳細な解明を進めている。以上より、本研究の初年度に関する進捗は十分な進展があったものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の環状ポリイミン4-6量体の酸化反応では、架橋エチレンの一部しか酸化反応が進行していないことが明らかとなった。その結果を受けて、より生成物の環ひずみが少ない8量体以上の環状ポリイミンを利用した環状π共役系の構築を検討する予定である。8量体以上の鎖状ポリケトンから分子内環化・イミン化反応を経由して環状ポリイミンを合成し、環サイズの拡張に応じた酸化反応の挙動変化を調査する。加えて、適切な酸化剤を用いた反応条件や環状π共役系を構築可能な環サイズ領域について検討を進める。得られた環状π共役化合物に対しては物性測定だけではなく、その構造由来する特異的な芳香族性や光物性を計算化学による解析にも取り組んでいく予定である。
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