研究課題/領域番号 |
21J11263
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
七島 幹人 東京工業大学, 情報理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 計算論的学習理論 / 学習可能性 / 計算複雑性理論 / 暗号理論 / 平均時計算複雑性 / PAC学習 / 一方向性関数 |
研究実績の概要 |
本年度は,暗号理論と計算複雑さ理論の中心的概念であるNPの最悪時困難性の間にある諸概念と学習の計算論的困難性(以下,学習困難性と呼ぶ)の関係性を調査し,暗号・計算・学習の理論をまたぐ,以下の重要な関係性を得た. (1) 平均時学習困難性と追加入力付き暗号一方向性関数の等価性 :追加入力付き暗号一方向性関数とは,標準的な暗号の安全性要件を自然に弱めた暗号プリミティブである.既存研究では,そのような追加入力付き暗号一方向性関数の存在が,学習困難性を示すのに十分であることが知られていた.本研究では従来の学習モデルの要件を平均時に緩和したモデルを導入し,既存研究の逆方向,すなわち,平均時学習困難性が追加入力付き暗号一方向性関数の存在に必要十分であることを証明した. (2) NPの平均時容易性を基にした,効率的学習可能性の証明:従来,計算論的学習理論で議論される学習要件は任意の関数を任意の分布上で学習するという最悪時の要件を持ち,この点が従来の暗号理論とのギャップの大きな要因となっていた.本研究ではそのような分布の条件を任意の分布から任意の回路モデルで効率的にサンプル可能な分布に緩和することで,そのようなモデルにおける十分自然でかつ強い学習可能性が,NPの平均時容易性のみから従うことを証明した.加えて,平均時容易性を基にした学習可能性の証明において,このような分布条件の緩和が,相対化する手法と呼ばれる現在の標準的証明手法の枠組みの中で本質的に不可欠であるという理論的根拠を与えた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度に得られた,学習可能性と追加入力付き暗号一方向性関数,及び,NPの平均時容易性との新しい関係は,従来の暗号理論や平均時計算複雑性の理論に学習理論から新たな観点を与えるものであり,本研究の大きな達成目標である暗号理論・計算複雑さ理論間のギャップの緩和に向けた学習理論からのアプローチに今後大きく貢献するものであると期待出来る.また,以上の結果は理論計算機科学におけるトップ国際会議であるFOCSや学習理論におけるトップ会議であるCOLTに採択され,国際的にも高い評価を得ている.以上の観点から本研究課題の進捗は概ね順調であると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,従来の研究計画に従い,初年度の列挙型研究で特に顕著な成果が得られた項目に特化させた研究を行う. 特に,初年度に得られた,NPの平均時容易性を基にした効率的学習可能性の証明では,メタ計算量理論と呼ばれる分野の知識が用いられている.メタ計算量理論は現在,計算複雑性理論の研究者を中心に盛んに研究されており,様々な新しい知識が集まっている領域である.そこで得られた知見を学習複雑さの理論に取り入れることで,また,ブースティングなどの学習理論に特有の手法を逆にメタ計算量理論に取り入れることで,学習理論,メタ計算量理論,暗号理論,及び,従来の計算複雑さ理論間の更なる関係性の調査,及び,ギャップの緩和を狙う. また,初年度の研究によって,そのようなギャップのうちいくつかの緩和には,相対化のバリアと呼ばれる証明手法における障壁があることが分かった.このような障壁の突破には,相対化しない手法と呼ばれる,従来の証明の枠組みに収まらない証明手法が必要不可欠である.今後は,学習可能性と他分野の諸概念間の相対化のバリアの突破に向けて,現在知られている相対化しない手法である,PCP定理,及び,対話証明系の要素を取り入れた証明手法の開発を目指す.加えて,後者の対話証明系の要素を取り入れた証明(より具体的にはIP=PSPACEの証明)では代数化のバリアと呼ばれる別の障壁が突破できないことが分かっている.その一方で,学習可能性と他分野の諸概念間に代数化のバリアが存在するかどうかは現在分かっていない.本研究ではこのような代数化のバリアを含む新たな証明手法のバリアの特定を視野に入れつつ,メタ的な観点からのギャップの緩和によるブレイクスルーを目指す.
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