研究課題/領域番号 |
21J11325
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 圭太 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | DNA / 人工DNA / 金属錯体型塩基対 / 分子マシン / DNAナノテクノロジー / 金属錯体 / 酸化還元 / 自律振動 |
研究実績の概要 |
本研究は、水素結合を介したX-A(アデニン)塩基対と金属配位結合を介したX-Cu(II)-X塩基対の両方を形成する人工核酸塩基Xを開発し、Cuイオンの酸化還元によるX-AとX-Cu(II)-Xの塩基対スイッチングを用いてDNAの会合挙動を制御することを目的としている。さらに、Xの塩基対スイッチングをCuイオンの酸化還元振動反応と連動させることで、DNAの会合状態やDNA分子マシンの自律振動を誘起することを目指している。 今年度はCu(II)イオンとの錯体を形成するX塩基として天然チミン塩基の5位メチル基をイミノ二酢酸型のキレート配位子に置き換えた構造を設計し、Xのヌクレオシドの合成やDNA鎖への導入、およびX塩基を有するDNA二重鎖の熱的安定性の評価を行った。その結果、以下の研究成果・知見を得た。 (1) 新規化合物であるX塩基のホスホロアミダイト体を、市販の5-ブロモ-2′-デオキシウリジンから4段階、合計収率24%で合成することに成功した。続いて、自動合成機を用いた固相合成法によってX塩基をDNA鎖に導入し、HPLCによる精製を行うことで高純度なX塩基含有DNA鎖を得た。 (2) UV吸収スペクトル測定を用いた二重鎖融解実験から、中央に一対のX-X塩基対を含むDNA二重鎖は、Cu(II)をはじめとする種々の金属イオン存在下でも熱的安定性に変化がないことがわかった。一方で、一対のX-A塩基対を有する二重鎖は、10当量のCu(II)イオンの添加によって融解温度が4.5 °C減少し、熱的安定性が低下することが確認された。この結果は、X塩基がCu(II)イオンに配位し、塩基対形成挙動が変化したことを示唆している。 以上より、新規配位子型人工核酸塩基Xを含むDNA二重鎖の熱的安定性が、Cu(II)イオンによって制御できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Cuイオンの酸化還元に応答するDNAの会合挙動やDNA分子マシンの動作の制御を目指し、本年度は主に、Cu(II)イオンとの錯体を形成する配位子型人工核酸塩基Xの設計・合成およびDNA鎖への導入を進めた。種々の反応条件を検討した結果、X塩基のヌクレオシドおよびDNA固相合成に必要なホスホロアミダイト体を市販のヌクレオシド誘導体から比較的簡便に合成できることを見出した。そこで、DNA自動合成機を用いてX塩基をDNA鎖に導入し、X塩基を含む二重鎖の熱的安定性に対するCu(II)イオンの効果を調べた。その結果、一対のX-X塩基対を有するDNA二重鎖の熱的安定性には変化がなかった一方で、X-A塩基対を含む二重鎖はCu(II)の添加によって不安定化することがわかった。他の遷移金属イオンを用いた検討の結果、このような二重鎖安定性の変化はCu(II)イオン選択的であり、X塩基とCu(II)イオンの錯体形成に起因することが示唆された。 以上のように、新たに設計した配位子型人工核酸塩基XがCu(II)イオンと相互作用し、X塩基を含むDNA二重鎖の安定性が変化することが示された。このようなCu(II)イオンに応答する二重鎖の熱的安定性変化は、DNAの会合挙動制御やDNA分子マシンの動作誘起の基盤となるDNA鎖交換反応への応用が可能であり、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、新規配位子型人工核酸塩基XをDNA鎖に導入し、Cu(II)イオンとX塩基の錯体形成によって、X-A塩基対を含むDNA二重鎖の熱的安定性が低下することを見出した。次年度は、DNA二重鎖へのX塩基の導入数・位置を検討し、二重鎖内でのX-Cu(II)-X錯体形成を目指す。続いて、Cu(II)イオンに応答するX-AとX-Cu(II)-Xの塩基対スイッチングを用いて、Cu(II)イオンに応答するDNA鎖交換反応を行う。酸化剤および還元剤の添加によってCuイオンの価数を変化させることで、DNAの会合状態制御を試みる。また、既報のCuイオンの酸化還元振動反応との連動により、DNA会合状態の自律振動を誘起する。 さらに、X塩基をDNA分子ピンセットなどのDNA分子マシンに導入することで、Cuイオンの酸化還元状態に基づいてその構造を制御し、Cuイオンの酸化還元振動反応と連動した分子マシンの自律運動を実現する。
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