研究実績の概要 |
本研究課題では、水素結合を介したX-A塩基対と金属配位結合を介したX-M-X塩基対(M:金属イオン)の両方を形成する人工核酸塩基Xを開発し、「X-A ⇔ X-M-X」のスイッチングによるDNA会合状態の制御を行った。また、Xの塩基対スイッチングを金属イオンの酸化還元振動反応と連動させることで、自律振動を示すDNA分子マシンの開発を目指した。2022年度は、昨年度に合成したイミノ二酢酸修飾ウラシル(dcaU)の塩基対スイッチングを実証し、金属イオンに応答するDNA会合状態の制御へと応用した。その結果、以下の研究成果を得た。 (1) 二重鎖融解実験によって、dcaUと種々の金属イオンの錯体形成を調べた。中央に一対のdcaU-dcaU塩基対を有する二重鎖1-2は、Gd(III)イオン存在下で金属錯体型dcaU-Gd(III)-dcaU塩基対を形成し、熱的に安定化した。その一方で、dcaU-A塩基対を含む二重鎖1-2A はGd(III)イオンの添加によって塩基間の水素結合が弱まり、不安定化した。結果として、Gd(III)非存在下では二重鎖1-2Aの方が1-2に比べて安定である一方で、Gd(III)存在下では二重鎖1-2の方がより安定となり、dcaU-A ⇔ dcaU-Gd(III)-dcaUの塩基対スイッチングを実証した。 (2) ゲル電気泳動および蛍光測定から、DNA鎖1, 2および2Aの混合物において、二重鎖1-2Aが主に形成することを確認した。Gd(III)イオン存在下では一本鎖2Aが解離し、二重鎖1-2が形成した。また、Gd(III)とキレート剤のEDTAを交互に加えることで、二重鎖形成挙動を可逆に制御した。 本研究で実証した塩基対スイッチングは、他の金属イオンを外部刺激とする系への展開も可能であり、酸化還元に応答するDNA分子マシンの開発に向けて重要な知見が得られた。
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