研究課題/領域番号 |
21J11360
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
内藤 理 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 環状三量化反応 / Tishchenko反応 / アルデヒド / ビニルエーテル / カチオン重合 / タンデム重合 / 配列制御 / 分解性ポリマー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、アルデヒド2分子とビニルエーテル(VE)1分子から進行する環状三量化反応を基盤として、特異な主鎖構造を有するポリマーや配列制御されたポリマーを合成することである。2021年度は、(1) 環状三量化反応とTishchenko反応からなるタンデム重合、および (2) 環状三量体をモノマーとして利用したVEとの配列制御カチオン共重合を検討した。 (1) 当初の予定通り、適切な重合条件を構築するために単官能性モノマーを用いたモデル反応を行った。その結果、ビニル基上の電子密度が低い2-クロロエチルVE(CEVE)を用いて、EtAlCl2とAl(OiPr)3の混合触媒系により環状三量化反応とTishchenko反応の両反応が同時にかつ高選択的に進行した。さらにこの知見を基にして、二官能性アルデヒドを用いたタンデム重合系を構築できた。生成ポリマーは、両反応により生成する環状アセタールとエステルの両方を主鎖に有するため、酸およびアルカリにより異なる分解が可能であった。また、環状アセタールとエステルの構成割合は触媒の混合濃度比によって自在に制御できた。一方、ポリマー末端のほとんどはアルデヒド基であったが、一部アルコールに還元されていた。この副反応を利用して、新たに重合系中に加えたジカルボン酸エステルとのエステル交換反応を進行させ、三成分のタンデム重合系を構築できた。生成ポリマーは主鎖中に3種類の異なる構造を併せ持つため興味深い。 (2) 種々の共役アルデヒドとビニルモノマーを用いて環状三量体を合成し、CEVEとのビニル付加・開環同時カチオン共重合を検討した。植物由来の鎖状アルデヒドである2-ノネナールを用いると立体障害が緩和されて、ポリマー主鎖中に約40%導入された。このポリマーの主鎖は、CEVEと環状三量体が交互に反応して形成された部位は、ABCC型の配列を有していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の主な結果は、(1) 環状三量化反応とTishchenko反応が系中で同時かつ選択的に進行する条件を構築し、環状アセタールとエステルの両方を主鎖に有するポリマーを合成できたことである。この重合では、両構造の構成割合は触媒の混合濃度比によって自在に制御可能であった。また、ポリマー末端のアルデヒドが一部アルコールに還元されていることを見出し、これを利用してエステル交換反応を加えた、三成分のタンデム重合系に発展させた。これら様々な構造を有するポリマーに対して、示差走査熱量測定を行うと、主鎖構造に起因する幅広いガラス転移点を示すことがわかった。 (2)初期検討では、環状三量体の開環効率が低く、VEの単独重合体に近いポリマーしか得られなかった。そこで、電子密度と立体障害に着目し検討を進めると、立体障害を緩和可能な2-ノネナールを用いることで開環効率が向上しポリマー主鎖中により多く取り込まれた。また、環状三量体の開環方向を二次元NMRおよび酸加水分解後に得られた生成物の質量分析によって決定し、ポリマー主鎖中の配列を明確とできた。 ここまでは、当初予定していた研究であったが、新たに(3)環状構造かつ配列の制御されたポリマー合成の検討を始めることができた。その結果、予備検討中ではあるが、環状構造かつABAC型配列に制御されたポリマーが分子量は小さいものの合成可能になってきた。今後の展開が楽しみである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、2022年度は、(1)では、モノマー適用範囲の拡張および分子量の大きいポリマーの合成について検討する。現状の重合系では重合後期に、分子量が増大しなくなる問題がある。原因としては、わずかに進行する鎖状アセタール化反応と末端が還元されることと推定している。これらの副反応が進行する機構を明確にし、抑制可能な重合系の設計を行う。また引き続き、この副反応を利用した新たな有機反応による課題解決への可能性を探る。 (2)では、環状三量体の開環方向を決定することができたので、モノマー構造および重合条件を最適に設定することで、VEと環状三量体との交互共重合を進行させて完全に配列が制御されたポリマーの合成を検討する。また、この主鎖配列に起因するポリマーの特性を明確にするため、機能性基を有するモノマーを用いた検討を行う。さらには、新たに(3)環状構造かつ配列の制御されたポリマーの合成を検討する。以前の検討で、種々のビニルモノマーと二官能性芳香族アルデヒドを用いた環状三量化反応を行うと、反応進行後のオリゴマーも両末端に2つのアルデヒド基を有するため、連続的な反応が進行しポリ環状アセタールが合成できることを報告した。この反応を、ジフェニルエチレン(DPE)を用いて行うと、立体障害が大きいため重付加反応が進行せず、アルデヒド基を二つ有する環状三量体が選択的に合成できる。この三量体を用いて、再度VEとの環状三量化反応を行うと連続的に反応が進行することが予備検討でわかった。そこでさらに最適重合条件を検討し、環状構造かつABAC型の配列に制御されたポリマーを合成する。
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