研究課題/領域番号 |
21J11371
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
原科 颯 慶應義塾大学, 法学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 立憲君主制 / 宮中・府中関係 / 近代皇室制度 / 伊藤博文 / 柳原前光 |
研究実績の概要 |
初年度に当たる2021年度では、明治前期(特に明治10年代後半から同20年前後まで)における天皇・皇室と政治の関係、即ち当時の用語でいう宮中と府中の関係(以下、宮中・府中関係)および立憲君主制の形成過程を分析した。具体的には、以下の2点の方向性から研究を進展させた。 第一に、伊藤博文の滞欧憲法調査から明治憲法(以下、憲法)・明治皇室典範(以下、典範)の制定までに宮中・府中関係がどのように形成されたのかを考察した。その際、まず同時期の宮中・府中関係の整備を主導した伊藤に関して、既知の資料を再検討したほか、国立国会図書館憲政資料室(「憲政資料室収集文書」など)、宮内庁書陵部宮内公文書館(「伊藤公爵家文書」など)に所蔵される学界未見の書簡・書類を悉皆的に調査した。また、伊藤以外に宮中・府中関係や立憲君主制の整備に寄与した人物として、柳原前光(元老院議官)や香川敬三(宮内少輔)、鍋島直彬(元老院議官)などに焦点を当てつつ各々の関係史料を調査した(宮内庁書陵部図書寮文庫(「柳原家日記」)、学習院大学文学部史学科(「香川家文書」)、福岡市博物館(「鹿島鍋島家資料」所収の鍋島直彬宛書簡)など)。結果、憲法・典範の制定に至って宮中・府中関係は、従来の研究では宮中の府中への干渉(政治関与)の否定のみが強調される傾向にあったが、実際には宮中・府中両者の相互不干渉を原則として形成されたことが明らかとなった。 第二に、明治日本の立憲君主制の形成過程(特に憲法の制定過程)において、先行研究では早くから否定されたとされるイギリス立憲君主制の導入可能性が実のところ極めて真剣に検討され、結果として、起草者に憧憬の念を呼び起こしつつもそれが限定的となった様相を考察した。この研究は未だ途上にあるが、2021年度までに国立公文書館内閣文庫(英書)、横浜開港資料館(イギリス外務省文書)などで資料調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は2021年度も前年度と同様、COVID-19に伴う資料調査上の支障が多大となることが予想されたが、結果として学習院大学文学部史学科をはじめ各所蔵機関の御厚情により、比較的順調に資料調査を実施することができた。ただし研究発表については、想定以上の関係資料が発見されたことなどから、一つの完結した発表として準備することに苦慮し、その回数などは僅かにとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、憲法制定前後でイギリス立憲君主制の導入可能性が精査される過程について、引き続き検討を深める。その際、外国人法律顧問による答議類や伊藤博文による各種演説なども分析対象として組み込む。この成果を学会にて発表し、そこで得られた指摘をもとに論文として学術雑誌に投稿することを目標とする。 第二に、新たな課題として、伊藤博文の憲法調査以前の時期を考察することで、明治前期における宮中・府中関係、立憲君主制の形成過程をより包括的に明らかにする。その際、2021年度よりもさらに交通上の制約が軽減されると予想されることから、全国各地の資料所蔵機関での調査を進める。この成果についても学会にて発表し、得られた指摘を踏まえた上で論文として学術雑誌に投稿することを目標とする。
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