研究課題/領域番号 |
21J11378
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
林 利憲 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2) (00972621)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 三体問題 / 軌道安定性 / 連星ブラックホール / von Zeipel-Kozai-Lidov機構 |
研究実績の概要 |
永年摂動を用いたテスト計算の過程で、階層的重力三体系の軌道不安定性を調べる際にはN体直接数値計算を用いて軌道不安定時間スケールの観点で行うことが重要であると明らかになった。そこでNewton重力下において、N体直接計算コードTsunami(Alessandro Trani, Mario Spera)を用いて、大質量連星を含む三体系の軌道初期条件と系が崩壊するまでの軌道不安定時間分布の関係を詳細に調べた。 先行研究において、高い離心率をもつ三体系に対しては、ランダムウォークモデルを用いた不安定時間推定モデル(以下、RWモデル)が提唱されている。一方で、RWモデルでは初期軌道傾斜角や質量比などの依存性に対しては、詳しく調べられていなかった。そこで本年度は特に、代表的な3つの初期軌道傾斜角(0度・90度・180度)をもつ三体系に対して数値計算を行い、RWモデル推定式との比較を行った。 研究の結果、特に逆行軌道(180度)をもつ三体系において、系が強く安定化され、RWモデルで推定される軌道不安定時間スケールよりも長時間崩壊しないことが示された。また、RWモデル推定が有効なパラメータ領域が初期軌道傾斜角に強く依存することが示された。得られた不安定時間スケール分布については、線形フィットを用いて経験的な推定式を導出した。 以上の結果から、連星ブラックホール等のコンパクト連星を含む三体系の探査において、強い安定性をもつ逆行軌道三体系を考慮することの重要性が示唆された。また、上述の経験的な推定式は、有効な軌道パラメータ領域が限定されるものの、特にRWモデルの推定と乖離の大きい逆行軌道三体系の不安定性時間の推定に有効なものとなりうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定であった永年摂動計算を用いた軌道安定性の議論が限定的にしか有効でないことが示された。そこで、網羅的なN体直接計算を用いて軌道不安定時間スケールをより基礎的な観点から調べることで、三体系の存在可能性を議論する方針となった。N体直接計算は、永年摂動計算に比べて計算コストが大きく、また安定性を系統的に調べるために広い軌道パラメータ範囲で計算を行う必要があるため、当初よりも計算時間が必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きN体直接数値計算を用いて、軌道不安定時間スケールの観点で三体系の軌道不安定性の研究を行う予定である。本年度の研究結果から、初期軌道傾斜角が系の不安定時間に強く影響することが示されたため、より系統的に傾斜角依存性を調べる予定である。また、先行研究で提案されている安定/不安定の二分的な軌道不安定判別式に対して、軌道不安定時間の分布との比較を行うことを考えている。
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