研究課題
クマムシは高い乾燥耐性能を有するが、その分子メカニズムの詳細は不明だった。クマムシはクマムシに固有のタンパク質群を大量に発現しており、その1つであるCAHSタンパク質は細胞内に局在し、ノックダウン実験により乾燥耐性に必要であることが示されている。近年、CAHSタンパク質は脱水ストレスに応答して可逆的に線維化することが明らかになったが、CAHS線維が乾燥耐性能に寄与するメカニズムやCAHS線維の性状は不明だった。申請者は、CAHSタンパク質が線維化するダイナミズムを明らかにするために、ヒト培養細胞にGFP融合CAHS3タンパク質を発現させ、高浸透圧ストレス条件下で連続撮影を行った。高浸透圧ストレスに曝露するとCAHS3タンパク質は細胞内で一斉に凝集し、その後線維状に伸長した。ストレスを除くとCAHS線維は緩まり、細胞内に分散した。この観察結果から、CAHSタンパク質は高浸透圧ストレス前後で液-固相転移を起こすことが予想された為、高浸透圧ストレス曝露前後のCAHS3-GFPに対して光褪色後蛍光回復法(FRAP)を用いて流動性変化を計測し、予想通りの結果を得た。一方で別のパラログであるCAHS8タンパク質は高浸透圧ストレス下で顆粒状に凝集した為、弱い疎水結合を切断することで液滴構造を破壊する薬剤1,6-hexanediolへの曝露実験を行ったところ、ポジティブコントロールであるFUS液滴に比べて弱い感受性を示した。CAHS8顆粒は液体と固体の両方の性質を持つと考えられる。CAHS8顆粒が他のCAHS線維に取り込まれるかを、培養細胞への共発現実験により調べた結果、CAHS8タンパク質は一次構造が類似しているCAHS12とともに線維化することを明らかにした。以上の結果から、CAHSタンパク質は高浸透圧ストレス依存に細胞骨格のような固体様の線維を形成することを明らかにした。
3: やや遅れている
当初の研究計画では、CAHS線維がもたらす物理学的特性の計測を予定していたが、CAHSタンパク質を恒常的に発現する細胞株の作出に予定以上に時間を要してしまい、達成できなかった。
本年度に明らかにしたCAHS線維の性状を元に、CAHS線維が細胞に付与する物理学的な特性の計測を行う。計測に必要なCAHSタンパク質を恒常的に発現する細胞株の作出はほとんど終えており、やや遅れているものの研究計画の進行に支障はない。
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