本研究は,「窒素原子の自在ドープによるキラルナノチューブの精密合成・機能発展」と題し,窒素ドープキラルナノチューブ分子の合成とキラル光物性を主とした機能展開を目的としている. まず,合成にあたっての基盤となる窒素原子ドープ型大環状分子の合成検討を行ったところ,思いがけず,カップリング反応による金属鋳型多量化反応 (Metal-templated oligomeric macrocyclization via coupling: MOMC) が効率的に進行することを見出した.ジクロロピリジンを基質とし,ニッケル試薬を用いた山本カップリング反応を行ったところ,ニッケル試薬を過剰量用いた場合に,5量体の大環状化合物が高選択的・高収率で得られることが分かった.興味深いことに,この5量体の大環状化合物は1H NMRにて40 ppm付近に1H NMR信号を与える常磁性錯体であることが分かった.さらに,X線結晶構造解析により5量体の大環状化合物の構造を明らかにした. CCDC結晶データベースを用いた構造検索を行ったところ,報告されているニッケル錯体39042件の中で,7配位バイピラミダル構造ニッケル錯体は25例しか報告されておらず,その中でも,NMR測定に成功した例はこれまでになく,本研究は常磁性7配位バイピラミダル錯体として常磁性NMR測定に成功した初例となった.さらに,本反応をπ拡張化合物に応用することで常磁性を示すニッケル・窒素ドープ型ナノカーボン分子の合成に応用できた.アリール置換ジクロロピリジンを,今回見つけたMOMC反応条件に付し,さらに2段階の変換を経て,3工程・11%の収率で目的のナノカーボン分子を合成することに成功した.KEKの高輝度X線を用いた単結晶X線構造解析によって,7配位バイピラミダル構造,そしてナノメーターサイズの直径を有するボウル状構造を明らかにした.
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