当該年度は、これまでの研究を学位論文にまとめることを本務として行った。学位論文の内容は、若い超新星爆発の残骸天体中における爆発噴出物の運動をX線を用いて観測することで、その周辺に存在する星周物質との相互作用を間接的に観測することが目的である。その中で私は、Tychoの超新星残骸において爆発噴出物が大きく減速を受けている領域において、シンクロトロン放射による非熱的X線が卓越している兆候を発見した。これは爆発噴出物と星周物質とが衝突している現場で、磁場により電子が強く加速されていることを示唆している。Keplerの超新星残骸でも同様の解析を行い、別に査読論文にまとめた(Kasuga et al. 2021)。この天体の軟X線帯域は爆発噴出物が放射する輝線に由来する熱的放射が卓越しているため、当該年度終盤に打ち上げが成功したIXPE衛星による軟X線帯域の偏光イメージングに加えて、本研究課題が目指す硬X線帯域の偏光イメージングによる偏光検出が、重要な知見をもたらすことが期待される。 また当該年度の後半では、XRISM衛星やFORCE計画に用いられる最先端の半導体検出器の知見が集結している京都大学大学院理学研究科物理学第二教室宇宙線研究室のX線観測グループに滞在し、今後の検出器開発について貴重な情報交換をさせていただいた。またMeVやTeV帯域の観測グループに対してもセミナーを行い、硬X線偏光イメージングの重要性を説明する機会を得た。
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