研究課題/領域番号 |
21J11468
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川合 茉利奈 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | フォルダマー / ペプチド / 非天然アミノ酸 / 再構成無細胞翻訳系 / 薬剤スクリーニング |
研究実績の概要 |
本研究は、環状βアミノ酸を含むヘリカルペプチドライブラリの構築および薬剤スクリーニングへの応用により、ペプチド医薬品の課題となる「膜透過性」を克服した薬剤候補獲得を目指している。前年度までに、3残基おきに環状βアミノ酸を導入したヘリカルペプチドライブラリを構築し、細胞内標的に対してmRNAディスプレイ法をベースにしたin vitroスクリーニングを行った。スクリーニングから得られたペプチドは、環状βアミノ酸に由来する高いhelicityおよび血清安定性を示すことが明らかとなった。さらに、ヒト細胞を用いた膜透過性試験を行った結果、ヘリックス構造形成によるペプチドの膜透過性向上を確認した。本年度は、この2つのヘリックス同士をループで繋いだhelix-loop-helix (HLH) ペプチドを薬剤スクリーニングに応用すべく、ライブラリ化条件を検討した。 HLH構造は、転写因子のDNA結合領域によく見られるモチーフであるが、2つのヘリックス同士の疎水性側鎖が向かい合うことで折り畳まれ安定化する。この構造は、単体のヘリックスと比較して剛直性が向上し、より標的への結合に有利であると考えられる。しかし、側鎖を固定したヘリカルライブラリを構築すると、その分多様性が低くなり、ヒットペプチドが得られにくくなる可能性がある。そのため、本研究ではペプチドのN末端にクロロアセチル基を持つアミノ酸、C末端にシステインを導入しチオエーテル結合を形成させることで、折りたたみ構造形成を図ることとした。この環状βアミノ酸を含むHLHライブラリを構築するために、モデルペプチドを設計し、翻訳条件を検討した。質量分析の結果、翻訳産物として目的の全長ペプチドを観測することができた。以上より、本年度で環状βアミノ酸を含むHLHペプチドをin vitroスクリーニングに応用するための基盤が完成したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、スクリーニングの前段階であるライブラリデザインおよびライブラリ化のための翻訳条件検討を目標にした。まず、環状βアミノ酸を含むヘリカルペプチドの、リンカー長さの異なる二量体ペプチドを化学合成した。合成ペプチドのCD測定により、構造の剛直性が増大するリンカーの長さを検討した。次に、リンカー長さの条件検討の結果をもとに、HLHペプチドのライブラリデザインを設計した。単体のヘリカルライブラリでスクリーニングを行う際は、アミノ酸長さが7-16であったが、HLHライブラリではアミノ酸長さがその2倍以上となる。また、環状βアミノ酸が6残基以上ペプチド鎖に導入されるため、翻訳効率が低下する。実際に、モデルとなるペプチド配列を以前のスクリーニングと同条件で翻訳を行ったところ、全長のペプチドは観測されなかった。この問題を解決するために、非天然アミノ酸の導入に影響を与える翻訳因子の濃度を検討することで、HLHペプチドの翻訳効率の向上を目指した。その結果、質量分析計で全長ペプチドを観測し、in vitroスクリーニングに適用可能であると考えられた。以上により、当初の計画通りライブラリ構築条件を確立し、おおむね順調に実験が進んでいるとみなすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに検討した翻訳条件を用いてHLHライブラリを構築し、細胞内標的に結合するペプチドのin vitroスクリーニングを行う。得られたペプチドを化学合成し、SPR法による結合力測定および血清安定性試験を行うことで、薬剤として優れたペプチド配列を特定する。合成ペプチドの構造はCD、NMR測定により予測する。さらに、タグ付きペプチドを化学合成し、ヒト細胞を用いた膜透過性試験を行う予定である。これらの実験は、環状βアミノ酸をアラニンおよびβ-アラニンに置換したペプチドと並行に行い、構造形成および活性における環状βアミノ酸の有意性を確認する。
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