研究課題/領域番号 |
21J11483
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
坂田 遼弥 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 太古火星 / 大気進化 / イオン散逸 / 磁気流体力学シミュレーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、多成分磁気流体力学(MHD)モデルおよび新たに開発する多流体MHDモデルによる数値シミュレーションによって、太古火星における電離大気散逸(イオン散逸)過程を解明することである。 多成分MHDモデルによる研究では固有磁場強度の異なる複数のケースの計算を行い、固有磁場の存在や強度が太古火星のイオン散逸過程にどのような影響を与えるか検証した。同様の検証を行った申請者による先行研究(Sakata et al., JGR, 2020)とは異なる太陽X線・極端紫外線放射(XUV放射)および太陽風条件下を用いることで他のパラメータによる影響についても検証した。弱い固有磁場を想定したケースでは、固有磁場を持たないケースに比べて電離圏アウトフローによるイオン散逸が増加した。一方で強い固有磁場を想定したケースでは、電離圏アウトフローおよびイオンピックアップによるイオン散逸が大きく減少した。これらの結果は先行研究の結果とも整合的であったとともに、固有磁場の磁気圧と太陽風の動圧の比を用いることによって固有磁場の影響を統一的に表せることを示した。太陽XUV放射が弱い条件下では固有磁場の影響がより顕著に現れることも明らかにした。以上の成果をまとめた学術論文が査読審査中である。 並行して、イオン散逸過程、特に電離圏からのイオン流出のより正確な再現に向けたイオン種ごとの運動を記述できる多流体MHDモデルの開発を進めた。モデルに組み入れた物理・化学過程の検証として1次元および2次元での電離圏シミュレーションを行い、先行研究の結果を再現できていることを確認した。また、本研究での検証で行うグローバルシミュレーションに向けてcubed sphereグリッドを用いたモデルの3次元化を完了させた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の目標通り、太古火星のイオン散逸過程に対して多成分MHDモデルによる一連の検証を行うことができた。得られた研究成果についても学術論文として現在査読を受けている段階であり、概ね順調に進んでいると評価している。一方で多流体MHDモデルの開発では、数値的に発生する磁場の発散を取り除く手法の検討や計算時間を短縮するための並列計算の実装など、モデルの3次元化に必要な作業に想定よりも長い時間を要した。しかしモデルの3次元化は本年度中に完了しており、来年度からは本研究の目的である太古火星のイオン散逸過程の検証に本格的に取り組める状態であることから、この遅れは十分に取り戻せると考えている。また、年度の後半には新たなモデルと先行するMHDモデルの比較検証を目的としたカリフォルニア大学ロサンゼルス校への1、2ヶ月程度の留学を計画していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて来年度への延期を余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
3次元化を完了させた多流体MHDモデルを用いて太古火星のイオン散逸過程についての検証を行う。多成分MHDモデルによる先行研究で用いられた太陽風・太陽XUV条件を踏襲し、固有磁場強度によって太古火星におけるイオン散逸がどのように変化するかを検証する。多成分MHDと多流体MHDでイオン散逸にどのような違いが生じるかについても着目して検証を行う。また、延期していたカリフォルニア大学ロサンゼルス校への留学を実施する。先行モデルとの比較検証を通じて新モデルの妥当性を確認するとともに、計算スキームや組み入れた物理・化学過程によるイオン散逸過程への影響を議論する。
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