研究課題/領域番号 |
21J11575
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田村 健祐 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 量子ダイナミクス / 強相関量子系 / 量子多体傷跡状態 / 数理物理 |
研究実績の概要 |
本年度はフェルミオン系における量子多体傷跡(QMBS)状態の研究が進展した。一般に相互作用する量子多体系の固有状態は熱的な性質を持つが、QMBS状態はその中でも特異な非熱的な固有状態のことである。量子多体系で見られる非熱的な振る舞いの新たな機構として、QMBS状態を持つ模型の構成法が現在までに提案されてきたが、一方でこうした先行研究の多くはスピン系を扱っており、フェルミオン系のような粒子系での例は未だに少ないという状況であった。 そこで本研究では、フェルミオン系においてQMBS状態が現れるような模型の可能性を調べ、その結果、スピンレスフェルミオン系においてQMBS状態が現れる模型の新たな構成法を見出した。そして具体的にQMBS状態の表式を与え、それが厳密な固有状態であることを確認しただけでなく、実際に非熱的な性質を持つことを調べた。 本研究の重要な点として、物理的自由度がフェルミオンであるという点に加えて、本構成法が次元によらないという点がある。QMBS状態に関する先行研究の多くは1次元模型を扱っており、2次元以上の高次元系の例は少数に限られていた。本研究で提案する構成法は、1次元のみならず任意の次元で適用可能であり、QMBS状態の研究において希少な高次元の例を新たに提示している。さらに多くの模型では空間的に一様なパラメータを持つのに対し、本構成法では必ずしもそうした一様なパラメータを要求しない。これは乱雑さを伴うQMBS状態の構成法の例でもあることを意味し、この点も本構成法の特徴的な点である。 最後にこれらQMBS状態を一意な基底状態として持つ模型の存在を見出し、QMBS状態の基底状態としての特徴づけを数学的に厳密な形で与えた点も結果の一つである。 本研究の結果は国内の研究会や国際学会で発表され、現在論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではフェルミオン系における新たなQMBSの例を提案することが当初の目的であった。本年度は、互いに相互作用しながらホッピングする項を考えることで、スピンレスフェルミオン系でQMBS状態が現れることを明らかにし、目的を達成することができた。さらにこの構成法は、高次元でも適用可能、空間的に非一様なパラメータを持つ、QMBS状態を一意な基底状態として特徴づけることができる、といった特徴を持つ。これらは当初想定していなかった特徴であり、計画以上に興味深い結果が得られた。またQMBS状態が現れる模型を単に考案するだけでなく、エンタングルメントエントロピーや物理量の期待値、ダイナミクスなどを計算し、実際にQMBS状態が非熱的な性質を持つことの数値的な確認まで完了した。 上記結果を論文として発表するまでに至らなかったため、急いで論文発表を行う必要があるが、研究計画以上にさまざまな特徴を持つQMBSの構成法を見出し、国内外の学会でもこの結果を発表できたことを踏まえて、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
QMBSの新たな構成法に関する研究では、状態の性質を数値的に調べる段階まで完了しているため、論文執筆に取り掛かり、早急な論文出版を目指す。 また、本研究計画では SU(n) Hubbard 模型の平坦バンド強磁性に関する研究も行う予定であった。そこで、上記論文出版と並行してこの研究を進める。具体的に、SU(2) Hubbard 模型の平坦バンド強磁性の理論を参考にしながら、SU(n) Hubbard 模型への理論の拡張を試みる。そして SU(n) Hubbard 模型で成立する数学的に厳密な結果を新たに確立する。
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