研究課題/領域番号 |
21J11643
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上田 悠介 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 銅触媒 / 不斉合成 / 光駆動 / 分子内電荷移動遷移 |
研究実績の概要 |
アシルシランとリン酸アリルエステルを反応基質とする光駆動銅触媒不斉アリル位アシル化反応を開発した。塩化第一銅/キラルカルベン配位子前駆体/塩基から系中調製する銅(I)触媒存在下、青色 LED ランプで低温光照射することによって完全なγ位選択性で定量的に反応が進行し、カルボニルα位に不斉炭素中心を有するβ,γ不飽和ケトンが極めて高いエナンチオマー過剰率で得られた。立体障害の大きな置換基や官能基を含むリン酸アリル基質及び複素環部位を有するアシルシランや医薬品から誘導してきたアシルシランに対しても優れた適用性が確認できた。加えてγ,γ-二置換第一級リン酸アリルとの反応も良好な収率及び立体選択性で進行し四級不斉炭素中心の構築にも本反応が適用できることを確認した。添加剤を加えた実験的手法や量子化学計算を利用した計算化学的手法を用いることで、想定していたアシル銅の光励起分子内電荷移動遷移(MLCT)特性により反応が進行していることが強く示唆された。その過程において、光励起アシル銅がリン酸アリルエステル基質の脱離基を活性化し、アリルラジカルを生成した後、このアリルラジカルが分散力によって銅錯体上に捕捉されるという非常に興味深い知見を獲得することもできた。さらにこれらの知見を活かした新規反応の開発にも成功している。すなわち、α,β-不飽和カルボニル化合物を求電子剤とすることでアシルシランの不斉1,4-付加反応が進行することを見出した。本手法により医薬品や天然物、またはその合成中間体として有用なキラルな1,4ジカルボニル化合物を良好な収率及び立体選択性で合成可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請当初より取り組んできた光駆動銅触媒不斉アリル位アシル化反応について、基質適用範囲の拡張や反応メカニズムの解明を達成した。その過程で想定していたアシル銅の光励起分子内電荷移動遷移(MLCT)特性という非常に興味深い化学現象に関する知見が得られた。さらに量子化学計算の結果、反応中間体においてアリルラジカルが分散力によって銅錯体上に捕捉されるという予想外の現象を見出すことができた。この結果をまとめた学術論文はJournal of the American Chemical Society誌に掲載されるとともに、査読者からも高い評価を受け、Supplementary Coverにも採択された。また、一連の成果を北海道大学からプレスリリースとして発表したところ、海外のメディアにも取り上げられた。本研究によって明らかとなった新しい化学現象の波及効果の大きさが窺える。実際に上述の知見を活かすことで、新規反応の開発へと展開している。具体的には、α,β-不飽和カルボニル化合物を求電子剤として用いることで、アシルシランの不斉1,4-付加反応が進行することを見出した。以上のように、光駆動銅触媒不斉アリル位アシル化反応を開発するとともに、興味深い反応機構を明らかにし、新たな反応開発へと展開した。これらの成果の学術的意義は大きく、研究は「おおむね順調に進展している」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、前年度に引き続きすでに学術論文として発表した光銅触媒不斉アリル位アシル化反応における活性種であるアシル銅の単離・同定を試みる。具体的には、草間らによって報告された銅シロキシカルベン錯体の合成(Org. Lett. 2021, 23, 9490-9494.)を参考に、カルベン錯体の合成と続く塩基との反応によるアシル銅の合成を行う。さらに、得られたアシル銅錯体の光励起に関する知見を集める。 これまでに得た銅触媒のMLCTに関する知見をもとに、α,β-不飽和カルボニル化合物を求電子剤としたアシルシランの1,4-付加反応の開発に取り組む。現在のところα,β-不飽和カルボニル化合物としてアルデヒドやケトンを求電子剤として利用することで、良好な収率・エナンチオ選択性で反応が進行することを確認している。さらなる収率およびエナンチオ選択性の向上を目指して配位子の検討を行う。具体的には、現在良好な結果を示す配位子上の置換機を種々変更することで、反応場における電子状態や立体環境のチューニングを行う。本反応に関して、基質適用範囲や生成物の誘導化及び反応機構解析に取り組む。 また1,4-付加反応以外の新反応開発にも着手する。アシル基と化学的に等価な電子不足配位子を有するシアン化銅(I)やアシルアルキニル銅 (I)などを触媒中間体とする新化学反応や、イミンやケトンなどの種々の求電子剤を利用した新規アシル化反応の開発に取り組む。
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