研究課題/領域番号 |
21J11651
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
林 裕貴 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 光/熱異性化 / シクロヘプタトリエン / 選択的酸化 / 応答性分子 / 架橋型カチオン / ヒドリドシフト |
研究実績の概要 |
本研究に先立って申請者は、超混雑エチレン誘導体を合成し、二種類の安定異性体を単離するとともに、光/熱による定量的異性化挙動に基づく酸化特性のスイッチングが可能であることを報告した。しかし、この応答系で得られた異性体は二種類のみであり、その他に予測される構造は確認されていない。そこで本提案研究<A>では、より汎用性の高い応答系を構築すべく、さらに多くの異性体が発現する分子設計を行い、酸化特性の多段階制御及び強力な電子供与性獲得による完全スイッチングを目指すこととした。 以上の背景のもと、上記応答系に組み込むキノジメタン骨格を拡張した複数の誘導体を新たに合成することとした。これにより、これまで確認されなかった異性体の単離が期待され、三つ以上の異性体間で酸化特性の多段階制御が可能になると考えた。また各種測定に十分な溶解性を確保するため、tBu基を新たに導入する。現在までに、tBu基の導入、および合成前駆体の単離に成功している。今後、目的の応答系創出に向けさらなる検討を行っていく。 一方課題<B>では、ヒドリドが局在化した[C-H…C+]架橋型カチオンに着目した。この構造を有する誘導体において、溶液中でヒドリドシフトを示すことが知られている。このヒドリドシフトの活性化障壁についてこれまで明らかにしてきたが、分子の異性化応答に利用した例はない。 そこで本研究では、[C-H…C+]架橋型構造において、ヒドリドシフトの際に異性化が生じる新規応答性分子を設計した。実際に合成を行ったところ、温度や溶媒の極性によって、異性体比が変化することを見出した。現在、メカニズムの詳細な解明と、異性化の制御に基づく前例のない応答系創出に向け、さらなる検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題<A>のこれまでの研究により、溶解性向上のためのtBu基の導入、および合成前駆体のジカチオン種を単離し、X線結晶構造解析によってこれらの構造決定を行った。目的化合物へは、これら前駆体の亜鉛還元によって容易にアクセスできる。合成が完了し次第、異性化挙動および酸化還元挙動の調査が可能であり、研究目標の達成に向けて順調に進展している。 また、上記ジカチオン種自体も非常に興味深く、これらの調査によって中央のアントリレン骨格数と分子の電子的特性との関係性が明らかになると期待される。現在は、本研究課題<A>の遂行と同時に、ジカチオン種の詳細な調査にも着手している。 一方課題<B>では、現在までの研究により、三種類の目的化合物の合成はすべて完了した。論文投稿を見据えて、目的化合物だけでなく、合成中間体も含めた新規化合物の物理データもすでに測定済である。さらに、X線結晶構造解析、UV/Visスペクトル測定、温度可変NMR測定、CV測定など、各種測定にもすでに取り掛かっており、温度や溶媒の極性によって、溶液中において異性体比が変化することを見出している。現在は、異性化挙動の制御と、メカニズムの詳細の解明を目指し、さらなる測定を行っている段階であり、研究目標の達成に向けて順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
<A>酸化特性の多段階制御およびON/OFFスイッチングの実現に向けて、目的の複数のパラキノジメタン誘導体の合成を完了させ、室温で安定に存在する全異性体の単離、およびX線結晶構造解析による構造決定を行う。続いて、安定配座間の応答挙動および酸化特性のスイッチング挙動について、以下の方法で調査する計画である。まず、各異性体の光-熱異性化挙動をUV/VisおよびNMRスペクトルで追跡する。次いで、対応するジカチオン種の単離、構造決定を行うとともに、電解酸化、還元の様子をUV/Visスペクトルや蛍光スペクトルで追跡することで、エレクトロクロミズム挙動を調査する。さらに、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定によって各異性体の酸化電位を明らかにし、各異性体の混合状態における選択的酸化を行うことで多段階制御を実現する。さらに今後の研究展開では、オルトキノジメタン誘導体も合成し、上記同様の調査を行うことで、一連の分子スイッチを構築する計画である。 一方<B>1,6-ヒドリドシフトに基づく異性化応答の達成に向け、すでに合成済の三種類の目的化合物の各種測定を行う。具体的には、極性が異なる数種類の溶媒を用いて、UV/Visスペクトル測定、CV測定を行い、溶媒の極生の効果を調査する。また、温度可変NMR測定、温度可変UV/Visおよび拡散反射スペクトル測定により、異性化挙動の温度依存性も確認する。さらに、IRおよびラマン測定によりC-H伸縮振動を観測することで、結合の力の定数についても調査する。
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