研究課題/領域番号 |
21J11654
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
景政 柊蘭 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | CPR / Patescibacteria / 廃水処理 / サイズ分画 / メタゲノム解析 |
研究実績の概要 |
本研究は、廃水処理汚泥中に存在している未培養系統群の生理生態学的特性を明らかにし、廃水処理における役割を解明することを目的としている。廃水処理汚泥中には未培養系統群に属する細菌で構成されているCPRに属する細菌が普遍的に存在しており、廃水処理に寄与していることが示唆されている。そのため、CPR細菌の生理生態学的特性を解明し廃水処理における役割を明らかにする必要がある。 今年度は活性汚泥中のCPR細菌の集積方法の確立と機能解析を行った。活性汚泥中には多種多様な微生物が存在しており、そのことがPatescibacteriaの生態学的特性の解明を困難にしていた。そこで、ろ過フィルターを用いた活性汚泥のサイズ分画アプローチを解析サンプルの前処理に適用した。その結果、活性汚泥中のCPR細菌を集積することに成功した。集積されていた主なCPR細に属する細菌は、Saccharimonadia、Paceibacteria、Gracilibacteria、Microgenomatia、ABY1であった。サイズ分画アプローチによってCPR細菌の相対存在割合が増しただけでなく、種数やアルファ多様性指数も増加した。活性汚泥にはこれまで見過ごされていた可能性があるCPR細菌が多種多様に存在していることが明らかになった。さらに、サイズ分画した活性汚泥から高品質なCPR細菌のゲノムbinsを回収することにも成功した。回収したゲノムbinsは、これまでに活性汚泥から取得された例が少ない系統であった。CPR細菌は他者との相互作用に関わる遺伝子を持っており、他者への寄生もしくは他者との共生を行っている可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
詳細な廃水処理メカニズムの解明のため、多くの研究者に先駆けて、汚泥中に存在している未培養系統群、特にCPR細菌に着目し研究を行っている。今年度は、活性汚泥中のCPR細菌の生態学的特性の把握のための解析方法の確立に注力して研究に取り組んだ。効率的にCPR細菌の生態学的特性を把握するために、廃水処理汚泥の解析では取り入れられていないCPR細菌を集積するための手法を取り入れ、研究を進めている。その結果、廃水処理汚泥中のCPR細菌の生態学的特性の解明のための解析アプローチを確立することができた。その結果、活性汚泥にはこれまでに考えられていたよりもCPR細菌が多種多様に存在していることを明らかにした。加えて、廃水処理において新規性の高い系統のゲノムを取得することにも成功し、その生態学的特性を明らかにした。CPR細菌についてさらに詳細に解析を行うために既に全国各地の廃水処理プラントから汚泥を採取している。今年度確立した解析アプローチを用いて、これらの汚泥中のCPR細菌について解析を進めることで、廃水処理におけるCPR細菌の詳細なふるまいが明らかになることが期待できる。 今年度の研究成果を英語論文で発表する予定である。既に1本ジャーナルに投稿済みであり、もう一本執筆中である。また、定期的に国内外の会議で研究発表を行っている。会議への参加を通して、研究成果を広くアピールすると共に他の研究者達からの刺激を受けている。
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今後の研究の推進方策 |
廃水処理汚泥中のCPR細菌の生理生態学的特性を明らかにし、廃水処理における役割を解明するために、日本各地の廃水処理場の汚泥に存在しているCPR細菌についてその生態学的特性を解明する。処理条件(処理方式、処理規模、廃水処理場の立地、流入廃水の性状)が異なる様々な廃水処理場の汚泥についてサイズ分画によるアプローチを用いてサイズ分画を行った後、主にアンプリコン解析とメタゲノム解析に適用する。異なる様々な環境下に存在しているCPR細菌について解析を行うことで、廃水処理においてコアとなるCPR細菌 (廃水処理汚泥で検出される頻度が高い, サンプル内での相対存在割合が高いCPR細菌) やその様なCPR細菌の代謝特性を明らかにすることができる。また、CPR細菌は他の微生物に寄生もしくは他の微生物との共生を行っているため、規制や共生に関わる遺伝子や機能の探索も行う。特定の処理条件のもとで検出されるCPR細菌についても同様に解析を行うことで、CPR細菌の生態学的特性について詳細な理解を行う。 また、特別研究員採用前からデータを蓄積していた2年に及ぶ活性汚泥中の微生物データを使用してネットワーク解析を行う。それにより活性汚泥中のCPR細菌と共起して検出される微生物を明らかにすることができる。CPR細菌に加えて、CPR細菌と共起する微生物についても寄生や共生に関わる遺伝子を中心に解析を行うことで、廃水処理におけるCPR細菌の振る舞いを明らかにすることに繋がる。以上のデータをもとにCPR細菌が廃水処理において果たしている役割の解明を目指す。
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