申請者が2021年度の研究により室温創発インダクタ材料であることを実証した短周期らせん磁性体YMn6Sn6では、インダクタの発現機構が磁化の傾斜モードと位相シフトモードの2つに由来していることが明らかになっていた。2022年度の研究においては両者の選択的制御を実現した。具体的には、YMn6Sn6の非磁性サイトであるYを磁性を有するTbで少量置換することにより、系内に磁性不純物を導入しピニングの効果を増大させた。傾斜モードに比べて位相シフトモードはよりピニングに敏感であることが期待され、実際にこの置換によって位相シフトモード由来とみられる創発インダクタンスが大幅に抑制されること、この際に傾斜モード由来の創発インダクタンスが保存することが実証された。同時に、磁気相図とインダクタンスの分布の系統的比較により、反強磁性体を含めた共線的磁気構造でもスピン揺らぎに基づくインダクタンスが生じうることが明らかになった。この成果により、創発インダクタンスの発生・制御が開拓されたのみならず、インダクタンス測定を通じてスピンダイナミクスの定量的評価手法への道が示された。実際、磁気相境界においても相共存に由来する磁壁が低周波領域で大きなインダクタンスを生じることが示されている。 さらに、創発インダクタンスの主たる舞台といえるらせん磁性体に関して、従来複雑ならせん構造の存在が示唆されていたTb5Sb3の単結晶磁化測定結果を初めて報告した。
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