多元系金属やセラミックスを溶融状態から急冷すると、複数構成相が同時成長した相分離構造を呈し、優れた特性や物性を示す。中でも、多元系セラミックスの相分離体は、高発光収率および光学的異方応答を示し、白色蛍光体や放射線撮像素子といった光学材料への応用が期待できる。一般に、これら相分離構造の自己組織化は溶融状態からの急冷過程に限定され、多元系セラミックスにおいては2000℃以上の超高温プロセスを経る必要があり、多量のエネルギーを消費することが課題である。本研究の目的は、気相からの相分離成長プロセス確立にある。気相法により相分離セラミックスを合成、成長メカニズムを解明し、その革新的光学的特性を実証する。。 2022年度は、Ce3+:Lu3Al5O12-Al2O3相分離膜の合成に成功し、そのシンチレーション特性について調べた。相分離膜は、紫外線や放射線励起により波長540 nmを中心とする緑色の発光を示した。また、そのシンチレーション光量は、単位α線に対して13000 photonsであり、これは単相膜の約42%であった。単相膜と相分離膜それぞれについて。放射線飛程シミュレーションコードのPHITSを用い、膜におけるシンチレーション相の電離量を調査したところ、相分離膜の電離量は単相膜の40~50%であることがわかり、これがシンチレーション効率における差異の要因と推察できた。この研究成果は、Optical Materials誌に投稿し、受理された。以上より、化学気相析出を利用した相分離膜の合成プロセスを確立し、その光学的特性を明らかにすることができた。
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