自閉スペクトラム症者の多くが感覚に関する過敏さや鈍感さを持ち、日常生活においてさまざまな困難さを有することが明らかになっている。しかし、これらの感覚処理の異常の原因となる神経基盤は解明されていない。 今回の研究課題である「自閉スペクトラム症における感覚処理障害の神経基盤の解明」では、特定の刺激に過剰に集中してしまう「注意の過剰選択性」というASD者の注意特性に着目した。実験では、fMRIを用いて自閉スペクトラム症者の感覚刺激に対する神経反応を測定し、感覚刺激に対する注意状態を変えた複数の課題を比較する予定であった。本実験によって、自閉スペクトラム症者の感覚処理の問題が引き起こされる原因を解明することが望まれた。 しかし、COVID-19の感染拡大によって、実験遂行のためのMRI室使用や、実験参加者の来訪などに対する制限が生じた。それによって、予定していた実験が中止になり、十分な研究を行うことが出来なかった。ただし、実験遂行に必要な課題の策定やプレ実験段階までの検討は終わらせることが出来たため、一定の進捗があったと考える。 MRIを用いた研究の遂行が難しかったことで、実験とは別のアプローチで自閉スペクトラム症者の感覚処理特性の原因解明を行うべく、質問紙による調査研究を並行して進めた。本調査により得られたデータから、自閉スペクトラム症児における感覚処理特性を評価する質問紙の因子構造の探索や、限定された反復的な行動様式のサブスケールと感覚処理との関連性についての検証などを進めることができた。また、感覚処理やASD症状、行動問題などのデータを用いてASD児をグループに分けるクラスター解析を行い、臨床的に意義のあるサブタイプ分類を試みた。これらの研究成果は、自閉症の国際学会であるINSAR2022に採択されたほか、論文として複数の学術誌に投稿された。
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