研究課題/領域番号 |
21J11942
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
竹山 知志 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | ウラン / 金属錯体 / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
本研究は、ウラニル(VI)錯体の酸化還元挙動を精緻に解明することを目的としている。本年度は「配位子に導入する置換基が、錯体の酸化還元挙動に及ぼす効果」と「配位子骨格が、錯体の酸化還元挙動に及ぼす効果」の2つを観点から検討を行った。 まず初めに「配位子に導入する置換基が、錯体の酸化還元挙動に及ぼす効果」について検討するため、サレン型シッフ塩基配位子を有するウラニル錯体の配位子骨格に電子的性質の異なる置換基を導入した錯体を9種類合成した。合成した9種類の錯体について分子構造を単結晶X線構造解析で明らかにした。続いて、すべての錯体について電気化学測定を行い酸化還元電位の見積もり、さらに分光電気化学測定と量子化学計算を組み合わせ、詳細に酸化還元挙動を追跡した。その結果、ウラニル(VI)錯体の一電子還元電位は、導入した置換基の電子的性質に応じて大きく変化することが明らかになった。一方で、一電子還元によって生成する錯体は全て、ウラニル(V)錯体であることが分かり、今回検討した9種類のウラニル錯体については、還元電位を変化させても酸化還元中心は常にウラン原子であることが明らかになった。 次に「配位子骨格が、錯体の酸化還元挙動に及ぼす効果」について検討を行った。配位子骨格を設計する際には、遷移金属錯体において、配位子が酸化還元活性を示すことが報告されているものを参考にした。様々な配位子骨格のウラニル(VI)錯体を合成し、酸化還元挙動を検討した結果、ウラン原子ではなく配位子が酸化還元応答を示す錯体を3種類合成・同定することに成功した。これらの3つの錯体については分光電気化学測定と量子化学計算を組み合わせることで、一電子還元体の電子状態を解明した。その結果、一電子還元体はウラニル(V)種ではなく、ウラニル(VI)-配位子アニオンラジカル種であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、酸化還元活性な配位子を有するウラニル錯体を3種類合成することに成功し、その分子構造を明らかにした。また、得られた3つの錯体について電気化学測定および分光電気化学測定を行い酸化還元挙動の「その場観察」を行った。その結果、錯体の酸化還元中心は、従来のウラニル錯体と異なり、配位子であることが明らかになった。これらの結果は、量子化学計算でも再現可能であり、実験と計算の両方から酸化還元挙動の解明に成功した。これは本課題の目的の一つである「酸化還元挙動の詳細な解明」を達成するものであり、期待以上の研究の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度に引き続き、合成および同定したウラニル錯体の酸化還元挙動を追跡する。具体的には、ウラニル錯体の電気化学測定を行い、錯体の酸化還元電位の決定を試みる。得られた酸化還元電位を参考に、電気化学と分光学を組み合わせた「分光電気化学測定」により、印加する電位を変化させたときの溶液の色の変化を観測することで、酸化還元活性な配位子を持つウラニル錯体の酸化還元反応の「その場観察」を行う。 昨年度に、配位子が酸化還元中心になるウラニル錯体の分子骨格の最適化が完了したため、本年度は、より精密に酸化還元中心を制御することを目指す。昨年度に合成が達成できたウラニル錯体は配位子骨格の全体が酸化還元反応に関与していた。そこで本年度は、配位子骨格に適切な置換基を導入することで、配位子骨格の一部分のみに酸化還元活性能を付与することを目指す。 さらに、昨年度に求めたウラニル錯体の酸化還元電位から、各酸化状態にあるウラニル錯体の合成に適する酸化剤もしくは還元剤の選定と溶媒や反応温度など合成条件の最適化を引き続き試みる。最適な条件を見出し「各酸化状態のウラニル錯体の合成・単離実験」を進めれるように努める。
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