研究課題/領域番号 |
21J12046
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
筒井 拓也 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 重力波 / アクシオン / 修正重力理論 / 非テンソルモード |
研究実績の概要 |
背景重力波を用いた非テンソルモード重力波の探査を行う際、テンソルモード重力波も同時に探査することになる。このテンソルモード重力波探査の結果も無駄にしないために、テンソルモード重力波にも影響を与える拡張理論の検証も行うことにした。具体的にはアクシオンと呼ばれる暗黒物質の候補に影響された重力波が存在するかの探査を行った。アクシオンとは「強いCP問題」と呼ばれる問題を解決するために導入された、近年注目されている未発見粒子である。 背景重力波探査は長時間データを解析することになるため計算コストが大きい。そこでまずは、できるだけ小さな計算コストで結果を得るために、短時間データである突発性重力波を用いた特徴的なテンソルモード重力波の探査を行った。この解析を先に行っておくことで、後で背景重力波探査を行ったときの結果の妥当性を評価することができる。 アクシオンに影響されると、重力波の一部は特徴的な増幅・遅延を起こす。そこで本解析では、その二次的な重力波の信号継続時間や遅延に対応したデータチャンクのみを解析することで、アクシオンに最適化した探査を行った。ただし本解析では、簡単のために重力波の飛来方向を考慮しなかった。 結果として、アクシオンと重力の結合定数(素粒子論において基本的なパラメーター)に対して、先行研究よりも最大で約10倍ほど強い制限を課すことに成功した。さらに、合計で5つの突発性重力波の解析を行い、その結果を繋ぎ合わせることで、制限領域を拡大し、より信頼のできる結果を得た。 この結果については、日本物理学会・KAGRA Face to Face meeting などをはじめとした複数の国内/国際学会にて発表を行った。また、現在はこの結果を論文に纏めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の想定では、非テンソルモード重力波を予言する拡張理論のみを検証する予定だったが、解析を工夫することで、テンソルモード重力波に影響を与えるタイプの拡張理論も検証することが可能である。そこで解析の簡単さから、まずは短時間データに対するテンソルモード重力波の解析を行った。ゆえに、非テンソルモード重力波の解析はまだ行われていないため「やや遅れている」。しかし、テンソルモード重力波の解析によって、先行研究より約10倍良い結果を得ることに成功しており、この追加解析の意義は無視できない。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのアクシオン探査では、簡単のために重力波の飛来方向を無視していた。これによってアクシオンと重力の結合定数に対して、既に先行研究より10倍強い制限を得てはいるが、重力波の飛来方向を考慮すれば、より強い制限を得られることが期待できる。特に、より制限の強い領域では、重力波検出器間での重力波の時間遅延が無視できないほど効いてくるため、重力波の飛来方向の考慮は間違いなく必要なことである。そこで今後は、この重力波の飛来方向まで考慮した追加の解析を行う。 上述の解析が終わり次第、長時間データである背景重力波の解析に移る。この解析では申請者がこれまでに開発してきた重力波の全天マップ推定手法を用いる。この手法はデータ中にテンソルモード重力波のみが存在することを仮定するので、非テンソルモード重力波が存在する場合には、全天マップの推定結果が歪む。つまり、推定結果が歪んでいることがわかれば、非テンソルモード重力波が存在することを示せる。そこで、まずは非テンソルモード重力波がそもそも存在しているかをしらべ、その存在確率を制限する。また、テンソルモード重力波の対称性がどの程度破れているかも評価する。突発性重力波の解析で推定された結合定数から、この対称性の破れが妥当であるかもセーフティチェックのために評価する。その後、非テンソルモード重力波が存在することを仮定した全天マップ推定手法を新たに開発することで、具体的にどの種類の非テンソルモード重力波が存在しているかを個別に制限していく。
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