研究課題/領域番号 |
21J12113
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
長田 和樹 東京理科大学, 先進工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | オピオイド / マクロファージ / 大腸炎 / 食物アレルギー |
研究実績の概要 |
神経系による免疫機能制御はあらゆる疾患の病態形成に関連する。本研究は神経性疼痛物質として知られるオピオイドが免疫関連疾患に及ぼす影響を解析している。前年度までにδオピオイド受容体のアゴニストがヒト潰瘍性大腸炎の病態モデルであるDSS誘導性大腸炎の症状を改善することを明らかにし、特に免疫系の評価指標に変化が認められた。化合物の脳室内投与では病態が改善しなかったことから、大腸炎の改善効果は中枢神経系を介さずにもたらされることが示唆された。そこで当該年度はδオピオイドが免疫系に直接的な影響を与える可能性を検証すべく、より詳細な病態解析を行った。免疫細胞サブセットにおけるδ受容体の発現をマウス二次リンパ組織で解析すると、特に腸間膜リンパ節に存在するマクロファージで顕著に発現が認められた。さらに大腸炎病態において炎症時に増加する腸管組織のCD64陽性マクロファージがδオピオイド投与により減少することが判明した。またin vitroでマウス骨髄由来マクロファージの炎症性サイトカイン産生に対する影響を評価したところ、δオピオイドによる抑制効果が認められた。以上の結果より、δオピオイドはマクロファージの活性化抑制を介して大腸炎病態を改善することが示唆された。 さらにκオピオイド受容体アゴニストが食物アレルギー病態に与える影響に関しても検証を進めた。OVA誘導性食物アレルギーに対するκオピオイドの影響を解析したところ、化合物投与によりアレルギー症状が有意に改善することが判明した。食物アレルギーの病態形成には適応免疫系による抗原特異的IgEの産生と抗原の暴露に伴うマスト細胞活性化が重要である。そこで現在、κオピオイドが免疫系に及ぼす直接的影響と神経系を介した間接的影響についてそれぞれ解析を進め、病態改善機序の解明を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度はδオピオイドの大腸炎改善効果に関して原著論文を報告し、κオピオイドの食物アレルギーに対する影響に関しても学会発表を1回行った。以上の成果は概ね予定通りであり、次年度はκオピオイドに関する研究成果を原著論文として報告することを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後はκオピオイドによる食物アレルギー病態改善機序に関する解析を進める。近年、皮膚疾患の病態を中心に神経系による免疫機能調節の重要性が示唆されており、さらにκオピオイドは末梢神経系の活性化を制御することが報告されている。そこで本研究は食物アレルギー病態の形成に関しても神経-免疫調節機構が関与しており、κオピオイドはこの経路に影響することでアレルギー病態を改善するという仮説の基、解析を進めていく。まず食物アレルギーマウスにおいて、マスト細胞の活性化を組織化学染色やマスト細胞プロテアーゼ発現などの分子的指標を用いて明らかにする。また神経系による免疫細胞の機能調節には神経伝達に関連する低分子化合物やペプチドの関与が報告されていることから、これらの阻害剤が食物アレルギー病態に与える影響、また神経細胞によるこれら分子の産生・分泌に対するκオピオイドの影響を解析する。さらに蛍光免疫染色を用いて、アレルギーの病 態形成過程における腸管マスト細胞と神経細胞の動態を経時的に解析する。以上の解析により食物アレルギー病態における神経-免疫調節経路 の寄与とκオピオイドによる病態改善機序を明らかにすることを目指す。
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