本研究課題では、アリヅカムシ亜科の小顎肢形態と摂食行動の進化について明らかにするため、アリヅカムシ亜科のヒゲナガアリヅカムシ上族およびヒゲブトアリヅカムシ上族を中心とした系統関係の解明を目的として研究を行った。また、行動観察、分類学的研究も合わせて実施した。
分類学的研究の成果として、日本産コケアリヅカムシ属において1日本未記録種と5未記載種の存在を認めた。日本産本属は既知種への同定に問題を抱えていたためタイプ標本全4個体を検討し、本種への正確な同定方法を確立した。東南アジアを中心に多様化しているツムガタアリヅカムシ属から未記載種25種を認め、既知種含め39種から構成されることが判明した。日本産ヒゲカタアリヅカムシ属から3未記載種を確認した。 系統学的研究として、ヒゲナガアリヅカムシ上族は2つの主要クレードに分かれる多系統であることを示唆した。Colilodion属はArhytodini族と近縁であると考えられていたが、本研究ではPselaphini族に近縁であることが示唆された。また、ヒゲカタアリヅカムシ属は日本産好蟻性種群から構成されるクレードAと、樹皮や朽ち木に生息する種群から構成されるクレードBに分かれる多系統であることが示唆された。そのうち、好白蟻性種シロアリヒゲカタアリヅカムシはクレードBに含まれ、シロアリヒゲカタ属の示す好白蟻性は、樹皮下に選好的に生息するヒゲカタ属から進化したことが示唆された。 Tyrini系統の摂食行動様式に関して、2つの行動様式を確認した。両パターンにおいても多様な形態をもつ小顎肢に加え、前脚を捕獲の補助に用いていた。Tyrine系統では前脚腹面に棘や硬化した毛状棘が備わっていることが確認できる。また、小顎肢表面には接着機能を有すると思われる多様な毛を有している。このことから、それら毛は捕獲成功率を向上させるのに寄与している可能性がある。
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