研究課題/領域番号 |
21J12151
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
堀江 和正 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 都市社会 / 地域生活 / 民生委員 / 専門機関 / 媒介 |
研究実績の概要 |
本年度は、地域社会において「媒介」のアクターとして重要な役割を果たしてきた民生委員に着目して研究を進めた。研究は、現代の都市地域における事象を念頭に置きつつ、歴史的な資料の分析も含め複数の調査・分析手法を組み合わせておこなった。これにより、現代の媒介を規定している制度的・歴史的要因を理解するとともに、時代・地域の異なる事例を比較検討することを通じて、媒介を分析するための効果的な枠組みを構築することを目指した。 具体的には、以下の作業を進めた。第一に、文献調査により、民生委員制度の変遷とその社会的文脈を検討した。第二に、戦後期における民生委員活動の実態を検討した。その際、民生委員が地域社会で果たした、専門機関をはじめとした多様な主体によって提供される資源と地域住民とを媒介する役割に着目した。具体的には、民生委員向け機関紙「社会福祉時報」などの資料の分析と、社会調査データの二次分析を組み合わせておこなった。社会調査データの二次分析にあたっては、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センター課題公募型二次分析研究会「戦後福祉国家成立期の福祉・教育・生活をめぐる調査データの二次分析」に参加し、民生委員の自主性が強く意識されていた活動である世帯更生運動の実態を検討するため「福祉資金行政実態調査」(神奈川県・1962年)の分析をおこなった。第三に、文献調査および「福祉行政報告例」などの統計データの分析により、近年における民生委員活動の変容と、その地域差を検討した。 これらの作業から、地域生活を支えるような媒介はいかにして可能か、その社会的条件を明らかにするうえでの論点として、(1)住民による活動の自発性と専門機関の要請との関係、(2)住民が職業等を通じて蓄積した諸資源の役割、の2点が浮かび上がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本社会における「媒介」の重要なアクターである民生委員を主な対象として、各種の資料・データを組み合わせつつ分析をおこなうことで、その制度および活動実践の双方について、本研究を進めるうえで有用な知見を得ることができた。これにより、今後検討すべき論点についても明確化することができた。新型コロナウイルスの感染状況をうけ、当初の研究計画とくらべて資料分析の占める割合が大きくなったが、地域生活を支えるような媒介はいかにして可能か、その社会的条件を明らかにするという目的に向けて、研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、引き続きデータの収集・分析をおこないつつ、効果的な「媒介」がいかなる制度的・歴史的条件および地域社会的条件のもとで可能になるのかを立体的に描き出すことが、主要な課題となる。その際には、媒介の重要なアクターである民生委員を引き続き分析の焦点としつつ、住民・専門機関・諸集団の関係を捉えることを目標とする。 これらの調査と並行して、都市社会学・福祉社会学・社会福祉学等の先行研究を踏まえつつ、理論的枠組みの構築を進める。地域活動の担い手を、一枚岩的な「地域住民」としてではなく地域で多層的な役割を持つ存在として捉え、地域の事業者なども含めた形で媒介を理解できるような枠組みを構築することが課題となる。地域活動の担い手をどのように理解するかは重要な理論的課題であり、この点の検討は本研究の射程の拡大につながる。
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