研究課題/領域番号 |
21J12194
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
畑井 俊哉 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 大腸炎 / 上皮細胞 / 2型サイトカイン / タフト細胞 / 虫垂切除 |
研究実績の概要 |
潰瘍性大腸炎は難病に指定された炎症性疾患であり、これまでに生物学的製剤をはじめ様々な治療法が開発されてきたにも関わらず、患者数が増加の一途をたどり深刻化している。現存の治療のほとんどが炎症反応をいかに抑制するかが治療の焦点だが、いずれも一時的な効果は得られるものの根治を期待できるものではなく、根治を実現する治療法の開発が急務となっている。 本研究ではこれまで免疫や病理に関する報告の極めて少ない虫垂が、どのようなメカニズムで大腸疾患との関連するかを知ることを目的としている。虫垂切除マウスを作製し、生体内で起こる変化を解析するとともに、このマウスに大腸炎症を誘導し、虫垂切除が大腸炎の発症に与える影響を解析することで、虫垂切除による大腸炎発症抑制メカニズムを明らかにすることを目指している。 タフト細胞は寄生虫感染時に多量のIL-25を産生し、2型サイトカイン産生細胞の活性化を誘導する上皮細胞として知られている。近年、このタフト細胞は味覚受容体を発現することや微生物・ウイルスを認識し、アセチルコリン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどを産生することや、神経細胞と密接に相互作用することが知られている。 本年度の研究より、虫垂切除によりタフト細胞の過形成が生じることを見出し、タフト細胞が産生する主なサイトカインであるIL-25を欠損したマウスでは虫垂切除による大腸炎抑制効果は消失することを明らかにし、タフト細胞が大腸炎抑制に重要であると示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究より、虫垂切除マウスでは、デキストラン硫酸塩を飲水させた際に偽手術マウスと比して炎症の程度が弱いことが示され、虫垂切除による大腸炎抑制効果をマウスモデルにおいても検証できた。虫垂切除マウスは偽手術マウスに比べ、大腸の長腸化を来すため、大腸の非免疫細胞、特に上皮細胞を詳細に解析を行った。大腸特異的にIL-5やIL-13といった2型サイトカインの亢進や杯細胞の過形成を確認した。2型サイトカインを誘導する因子として知られるIL-25, IL-33, TSLPのうち、大腸上皮特異的にIL-25の産生が亢進していること、上皮IL-25産生細胞であるタフト細胞の過形成が起きていることを確認した。IL-25欠損マウスでは虫垂切除後にタフト細胞の過形成が起きないこと、大腸炎の抑制効果が消失することを示し、タフト細胞のIL-25が大腸炎の抑制効果に重要な役割をもつことを明らかにした。 さらに、虫垂切除により腸内細菌叢の変化が起こることが知られているため、虫垂切除マウスとそのコントロール群である偽手術マウスを同ケージ内に共飼いし、同じ細菌叢を共有するマウスを作製すると、タフト細胞の過形成が起きず、2型サイトカインの亢進が消失することが明らかになり、それに伴う虫垂切除による大腸炎抑制効果は消失することから、腸内細菌叢の変化が重要な因子であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は前年度の結果より、虫垂切除による腸内細菌叢の変化とタフト細胞の過形成に着目し研究を進める。まず、虫垂切除により変化した腸内細菌、もしくは腸内細菌の変化に伴う代謝産物の変動を網羅的に測定する。同定された腸内細菌もしくは代謝産物を2次元培養した上皮細胞に振りかけ、タフト細胞の過形成を評価する。同定された標的因子をマウスにin vivoで投与し、タフト細胞の過形成が起きるか、また大腸炎を抑制するかを検証する。 さらに、IL-25の標的細胞を同定することで、詳細なメカニズムの解明を目指す。腸管においてIL-25受容体を高く発現し2型サイトカインを産生する細胞として2型自然リンパ球(ILC2)が知られている。ILC2を欠損するマウス、もしくはILC2が産生するIL-5, IL-13の中和抗体を投与したマウスにおける虫垂切除の効果を検証する。
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