潰瘍性大腸炎は世界的に年々患者数が増加している炎症性腸疾患である。発症原因は不明であり、慢性的な腹痛を伴うことから社会活動が制限されてしまう。生物学製剤の登場により治療方法の選択肢は増えたが、様々なイベントをきっかけとして再燃と寛解を繰り返すため確定的な治療方針はなく、根本的な治療方法の開発が急務である。コホート研究により虫垂切除術を処置することにより生涯の潰瘍性大腸炎発症リスク低減につながることが知られている。本研究では虫垂切除が起こす大腸炎の緩和機序の解明を目的としている。 昨年度までの研究から①虫垂切除により細菌叢が変化していることが重要であること、②非免疫系のダイナミックな変化が起きている可能性が示唆された。そこで本年度は虫垂切除による細菌叢の変化や非免疫系の解析を中心に研究を進めた。細菌叢に関しては偽手術群、虫垂切除群の糞便をもちいて16Sメタゲノムシーケンスを行った。この結果から虫垂切除によって細菌叢の多様性が変化することがわかった。また糞便中の代謝産物の変化を解析することで、大腸の特定の上皮細胞の過形成を誘導することがわかった。この代謝産物は偽手術群と同ケージ内で飼育した虫垂切除マウスでは増加しないことがわかった。この代謝産物を投与することで大腸炎を緩和することがわかった。よって、当初の目的としてた基礎免疫学的研究のみならず、臨床応用の可能性がある代謝産物の同定、細菌学や代謝産物の解析といった予想を超えた結果を得ることができた。
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