前年度に引き続き、新規材料創成へ向けた基礎的知見として、多孔性金属錯体 (MOF) の一種でゲスト分子の包接に伴い構造変化(開孔)する性質を有する[Cu2(bdc)2(bpy)]n (1) に対する長鎖ポリエチレングリコール (PEG) の浸入現象に関して調べた。その結果、長鎖PEGの包接に伴う1の開孔は、溶融状態のPEGとの共存下では非常に遅い一方、1と長鎖PEGの混合溶液から加熱下で溶媒を留去することで迅速な1の開孔が誘起された。したがって溶媒等の共存により高分子鎖の拡散速度を向上させることがMOFと長鎖高分子の包接複合体を合成する上で重要であることが分かった。 得られた包接複合体は溶媒中において数百μm程度の大きな構造を有することを粒度分布測定により確認した。またこの複合体のAFM観察において基板上で1の粒子同士が緩く凝集する様子や、1の粒子近傍に長鎖PEGの結晶が存在する様子が見られた。以上はこれまでの実験結果と合わせ、MOFの粒子サイズを上回るPEG鎖が複数のMOF粒子を貫通・架橋したポリロタキサン様の構造が形成されていることを強く示すものである。 さらに1と長鎖PEGを用いて複合体フィルムを作製し引張試験を行った。常温ではPEG単体のフィルムと比べ複合体フィルムの引張弾性率・引張強度がそれぞれ50%、30%程度向上していた。一方でPEGの融点を超える温度で引張試験を行った場合、複合体フィルムはPEG単体よりも低い弾性率を示すことが分かった。これは比較的高温においては長鎖高分子鎖がMOF細孔内をスライドする運動による応力緩和が生じている可能性を示すものであると考えている。 加えて本年度は高分子鎖の包接によってMOF結晶の機械的な安定性が大きく向上すること、高分子の包接量や分子量、化学構造が機械的特性に大きく影響することも明らかとし、これについて論文投稿を行った。
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