研究課題/領域番号 |
21J12266
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
児玉 瑛子 大正大学, 仏教学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | ダルマキールティ / ダルモーッタラ / 論証式 / 実例 |
研究実績の概要 |
初年度においては,主要資料である『論理の滴』と『論理の滴註』第三章から(1)他者のための推論の定義・論証式の分類を説く第1-33スートラ,(2)実例・疑似実例を説く第121-136スートラを取りあげ,ドゥルヴェーカミシュラの復註『ダルモーッタラの灯火』も参照しながら文献学的研究を行った. (1)に対する註釈では,論証式やそれを論式化する行為を説明する術語として,「述べる」ことや「明らかにする」ことを意味する複数の動詞が用いられる.それらは,各語が表す行為の対象に応じて意図的に使い分けられている.そうした術語の意味を明らかにすることによって,論証式の各支分やそれに関わる下位概念の理解に繋げることができた.この成果は,日本印度学仏教学会学術大会において発表し,『印度学仏教学研究』に論文が掲載された. つぎに(2)に関しては,これまであまり着目されなかった,他者のための推論の文脈で説かれる実例の役割と,それに対するダルモーッタラの見解を分析した.論証対象の理解を突きつめるダルマキールティと,論証形式を重視するダルモーッタラという両者の相違を明らかにした.この成果は智山教学大会にて発表し,『智山学報』に論文が掲載された. さらに(3)上記の(1)および(2)の考察にあたって,仏教内の関連文献を検討した.(3-a)『プラマーナ・ヴィニシュチャヤ』等,『論理の滴』以外のダルマキールティの著作における(1)および(2)との関連箇所を同定した.実例セクションは読解も行い(2)の成果に反映したが,論証式関連の箇所は読解に至っていないため次年度の課題とする.また(3-b)『ニヤーヤ・プラヴェーシャカ』等,ダルマキールティ以前・以後の仏教論理学綱要書からも(1)および(2)との関連箇所を同定した.特に『論理の滴』と異なる記述に絞って読解を行い,論証式に関連する各概念の通時的な発展段階を概観した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の報告のとおり,基礎的な作業である『論理の滴』および『論理の滴註』第三章の校訂テキスト・訳註の作成を進めた.それにより,〈遍充〉と〈主題所属性〉から構成されるダルマキールティの二支論証式のうち,特に〈遍充〉支分に関する分析を進めることができた.一部の作業については,自身による既存の成果の再検討となる箇所もあったが,当初の計画にはなかった(3-b)の関連文献を検討し,論証式や実例をめぐる仏教内の展開を概観することができた.よって,全体としてはおおむね順調に研究が進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続き主要資料の文献学的研究を進める.特に「本質因の論証式」ならびに「論証式総説」セクションへ重点を置き,初年度に十分読解できなかった(3-a)の関連文献の内容もふまえて分析を行う.ダルマキールティを中心とした仏教内部の展開という視点から論証式に関する考察を深めるとともに,仏教外の文献にも検討範囲を広げる予定である.
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