初年度の成果(『論理の滴』および『論理の滴註』第三章「論証式セクション」の文献学的研究およびその分析)をふまえ,二年度目はダルマキールティの他の著作にも検討範囲を広げた.特に,仏教徒にとって重要な無常性の論証に用いられる「本質因の論証式」を主題とし,下記の点について研究を進めた. (1)『論理の滴』に先行するダルマキールティの著作から,『知識論評釈』第一章第186偈,『知識論決択』第二章第52偈といった本質因の分類が説かれる箇所を取り上げ,『論理の滴』第三章第9-14偈の記述と詳細に比較検討した.分類名,論証例,分類数という観点から,ダルマキールティの著作間における変遷を分析し,(i)本質因の分類の構造,(ii)伝統的な本質因に対するダルマキールティの理解,(iii)ダルマキールティ自身の創始した本質因と(ii)との差異化,(iv)著作ごとの変化に応じた註釈者たちの理解の相違を指摘した.この成果は,仏教思想学会学術大会において発表し,『佛教学』に論文が掲載された. (2)ダルマキールティ以前より伝統的に用いられた論証因krtakatvaをめぐって,本質因の分類法という観点からkrtakaという語の意味を検討した.特に,本質因を述べる語に関する註釈者たちの文法学的分析を精査し,他の本質因との相違も含めた考察結果を提示した.この成果は,西日本インド学仏教学会学術大会ならびに日本印度学仏教学会学術大会において発表し,『印度学仏教学研究』に論文が掲載された. (3)本質因の分類に関して,諸註釈者のうちで最も詳細かつ独自の見解を示すダルモーッタラの『論理の滴註』に焦点をあて,彼の視点から分類の構造を明らかにした.また,彼が述べる分類の目的観を通して,他者のための推論章(第三章)で当該の議論がなされる意義を指摘した.この成果は智山教学大会にて発表し,『智山学報』に論文が掲載された.
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