2022年度は,これまで実施してきた一連の触覚感情知覚実験をオランダにて実施し,触覚感情表出および知覚の文化普遍性について検討する予定であった(計画3)。しかしながら不安定な情勢に鑑みて計画を変更し,前年度までの成果(計画1および2)をさらに深めることに注力した。具体的には,多様なポジティブ感情に着目して,11種類のポジティブ感情を触覚から伝達する実験を実施した。そのうえで,収集した触覚感情表出データについて動作解析をおこない,計画1と同様の手法で,解読者が特定の感情が知覚した際に頻繁に使用された動作(典型動作)を記述した。そして,計画2と同様の方法で感情知覚実験を実施した。その結果,これまでに触覚研究で検討されてきた感情群のみならず,多様なポジティブ感情も,本研究が発見した典型動作を使用することで伝わりやすくなることを明らかにした。また,同様のパラダイムで,音声や表情によるポジティブ感情の伝達についても検討した。音声および表情についても,解析および典型表出を用いた知覚実験を実施したところ,音声や表情を使用する場合にも,典型表出を用いると意図感情が伝わりやすいことが示された。 本研究の触覚に関する成果は,触覚感情表出の標準刺激作成につながり得る点で学術的意義がある。また,身体接触による感情コミュニケーションを苦手とする人々にとって,円滑に感情を伝えるための指針となり得る点で,社会的意義があると考える。今後は,感情ごとの差異,および音声や表情との差異をさらに深掘りすることが求められる。 以上の研究と並行して,関連する成果のとりまとめに注力した。感情知覚における触覚と聴覚(音声)の多感覚相互作用を検討した論文が,国際学術雑誌Acoustical Science and Technologyに掲載された。
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