研究課題/領域番号 |
21J12304
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
相磯 尚子 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | オスマン帝国史 / 海軍 / 近世 / 海事史 / 地中海 / 西アジア・イスラーム史 / 東洋史 / 黒海 |
研究実績の概要 |
本研究は近世オスマン帝国の海軍活動を支えた人々の職務やキャリアを明らかにすることを目指すものである。このうち、2021年度は造船所長官に着目して研究を行った。刊行された年代記史料や、『枢機勅令簿』と呼ばれる行政文書史料群などの史料読解を行った結果、造船所長官に関してわずかなながらも情報を得ることができた。これらの史料では17世紀前半のある時期に造船所長官に関する記述が頻繁に見られるようになった。とりわけピヤーレ・ケトヒュダーと呼ばれる人物に関して多くの記録が見られた。これは、17世紀前半に黒海方面でコサックによる海上・沿岸部の略奪が頻発した結果、それまで地中海方面のみであった帝国艦隊に地中海と黒海の二方面へ出航する必要が生じ、二つ目の帝国艦隊の長官として造船所長官が命令されたためであると考えられる。言い換えれば、17世紀前半に造船所長官の海軍における重要性が高まったことが推察される。しかしながら、ピヤーレ以外の造船所長官に関しては数年から数十年に一度の頻度で名前のみが明らかになる程度であり、他の時代との比較検討なども難しく、研究論文の形で成果報告をすることを断念した。また、コロナ禍の影響で、トルコ共和国そのものへの渡航が難しく、現地での資料収集を延期せざるをえなかった。以上の二つの理由から、2022年度の課題であるエーゲ海の県の総督に関する研究に先んじて着手することとなった。エーゲ海の県総督に関する『枢機勅令簿』の読解を開始した。また、海外調査で新たな史料を得ることが難しくなったため、これまで出版されたオスマン海軍史研究についてあらためて読み直し、分析と整理・検討を行った。2022年度に繰り越して実施した海外調査では、イスタンブルのオスマン文書館においてルウース台帳と呼ばれる史料を調査し、人事に関する記録を収集したほか、当地でなければ入手不可能であった論集なども収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度にトルコ共和国へ渡航することが新型コロナウイルスの影響で難しく、海外調査を2022年度へ繰り越したために研究計画から遅れている。その一方で、2022年度で取り組む予定であった課題に着手したため、史料の精読については予定よりも順調に進んでいる。全体としてはやや遅れている程度である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度前半には、2021年度にコロナ禍の影響で先んじて着手したエーゲ海の県総督に関する研究成果をまとめる予定である。具体的には、2022年6月に三田史学会大会での研究報告を予定している。また、これを元に研究論文としてまとめ、学術雑誌へ投稿する。 2021年度に新型コロナウイルスの流行により延期したトルコへの海外調査も行う予定である。2022年度にはブルガリアへの海外調査も予定していたが、より多くオスマン海軍や海事に関する記録を残していると考えられるヴェネツィアへの海外調査へと計画を変更した。ヴェネツィアの文書館では、エーゲ海・アドリア海を国境に接するヴェネツィアによる、オスマン帝国の海軍に関する報告書と、在イスタンブルのヴェネツィア領事に関連した史料をそれぞれ調査する予定である。このイスタンブルとヴェネツィア、二つの海外調査は連続して夏季休業中に行う予定である。 2022年度後半には、エーゲ海県総督に関する研究報告と論文執筆のために中断していた、オスマン海軍史研究動向論文の執筆を再開する。この際、2022年度に予定している海外調査で入手するトルコ語の論集など、オスマン海軍史研究にとって重要でありがなら、日本では入手の難しかった資料についても精読を行い、研究動向論文へ加筆する。
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