研究課題/領域番号 |
21J12321
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮國 昂介 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 腎がん / DNAメチル化 / 薬剤感受性 |
研究実績の概要 |
これまでの研究から、腎微小環境との相互作用により腎がん細胞に生じるエピゲノム変化は、腎がんの進展に重要な遺伝子の発現を制御することがわかっている。そこで、本研究では腎がん細胞高悪性株のDNAメチル化亢進のメカニズム解析を行った。さらに発現変動が起きる因子の解析を試み、腎がんの新規治療法創出を目指すことを目的とした。本年度では、以下3点について研究を進めた。 1) Whole-genome methylation analysisを行い、樹立した腎がん細胞高悪性株におけるメチル化DNAを抽出した。さらに、RNA-sequencingによる遺伝子発現情報との複合解析を行うことで、悪性化に伴うDNAメチル化の亢進によって発現抑制を受ける遺伝子群が絞り込まれた。その一つとして、ミトコンドリア電子伝達系構成因子のひとつであるUQCRHに注目した。 2) ミトコンドリア電子伝達系構成因子UQCRHがシトクロムcと相互作用することが示唆されたため機能解析を行った。その結果、UQCRHはシトクロムc放出を制御し、適切にアポトーシスを誘導する重要な分子であり、潜在的な腫瘍抑制因子としての役割を持つことが分かった。 3) UQCRHは、腎がん細胞高悪性株ではDNAメチル化依存的に発現抑制されることが示唆されていることから、DNAメチル化酵素阻害剤の使用により、UQCRHの発現が回復されるか調べた。その結果、DNAメチル化阻害剤は潜在的腫瘍抑制因子とされるUQCRHの発現を回復させることがわかった。そこで、UQCRHの発現回復によって、腎がん治療の既存薬であるmTOR阻害剤エベロリムスの薬剤感受性が上昇するか検討した。その結果、DNAメチル化酵素阻害剤によりエベロリムスの感受性が亢進したことから、両薬剤の併用は腎がんの治療に効果的であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、Whole-genome methylation analysisによるメチル化DNAの抽出、およびRNA-sequencingによる遺伝子発現解析を通して、腎がんの進展によって生じるエピゲノム変化や遺伝子発現変動を網羅的に調べることができた。また、DNAメチル化の亢進によって強く発現抑制を受ける遺伝子群の抽出およびその機能解析から、DNAメチル化の阻害が腎がん細胞の腫瘍形成の抑制に有効であることを確かめるに至った。さらに、DNAメチル化阻害剤が腎がん治療の既存薬の薬剤感受性を上昇させる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、腎微小環境との相互作用を利用して樹立した腎がん細胞高悪性株ではエピゲノム変化が生じ、進展に重要な遺伝子の発現が制御されていることがわかっている。そこで今後の研究では、腎がんの転移に特に重要な因子の探索を試みる。具体的には、骨および脳へ転移する細胞を樹立し、腎がんの転移形質獲得に特に重要な遺伝子群を抽出する。すでに取得した腎がん細胞高悪性株におけるDNAメチル化の情報に加え、転移先の臓器との相互作用によるDNAメチル化の解析結果を照合することで、腎がんの予後不良因子の探索および治療標的としての応用を試みる。
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