前年度の結果から、過酸化トリアシルグリセロール(TG)をラットの胃内へ投与すると、腸管内でTGの酸化(過酸化TGの生成)が亢進することが明らかとなった。そこで本年度は、過酸化TGをラットへ経口投与し、血液・組織(とくに、肝臓)中の過酸化TG量の変動を調査した。具体的には、①経口投与試験に用いるための過酸化TG標準品の大量調製、②血液および肝臓における抽出法・精製法の整備、③経口投与試験、これらに取り組んだ。①については、未酸化のTG(約10 g)を光酸化させた後、夾雑物を各種HPLCによって除去した。精製物をMS/MSにより解析したところ、目的の過酸化TGであることが確認され、十分量(約3 g)の標準品を確保した。②については、前年度の液-液抽出法および固相抽出法を改変し、抽出回収率が血液で約90%、肝臓で約55%であることを確認した。③については、ラットを1晩絶食した後、PBSあるいは過酸化TG標準品(過酸化物価が約10、50、100、500となるように調製したもの)を経口投与した。4時間後に解剖し、血液および肝臓を回収した。HPLC-MS/MS分析の結果、全ての群において過酸化TGのピークが確認された。一方、予想とは異なり、それらの検出量に差は殆ど見られなかった。そこで、過酸化TGの体内での速やかな代謝を想定し、代謝産物の一つとして還元物を新たに分析した。その結果、とくに血液から還元物が明瞭に検出され、興味深いことに、その量は過酸化TG投与量と正の相関関係にあることが分かった。前年度の結果も踏まえると、過酸化TGの腸管流入刺激はTGの酸化(過酸化TGの生成)を誘発するが、【その生成物の多くは速やかに代謝(還元等)され、血中過酸化TG量は一定に維持される】と推察された。今後、こうした現象の生理的意義を見極めていくことで、本研究領域の更なる発展が期待される。
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